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 無数の緑色のランプが、不規則に点滅している。そんな電子プログラムの集まった薄暗い場所に、一人、コンピュータの画面に顔を照らされながら、せわしなくキーボードをたたき続けている。

 そこに自動ドアの音とともに入室するまた一人。カタカタという音が中途で止まった。

「足田様。お待ちしておりました」

「待たれてるところ悪いけどさ、あの説明は前にもしたよね」

「はい、その話ですが……やはり私には、無理があると思えてなりません」

 出迎えた女——秘書は、表情を曇らせて言った。

「『ドロー』理論のことだろう? 夢のある話だと思うけどね。『幸運』を人工的につくりだせちゃうなんて。そりゃ僕だって夢を見ちゃうよ」

 長身の男——足田はあどけなく笑って、肩をすくめて見せた。

「しかし、私には到底信じられません」

「あのさあ、リンちゃん」

 足田は少々顔をこわばらせた。

「『ドロー』理論の実験は、既に何十回と試行を繰り返されてきてるんだ。その度に有効性が実証されている」

「しかし……それが真実だとして……私にはあのやり方が正しいとは……」

 足田は不思議そうな目で、彼女をしばらく見つめてから、「ああ!」と手を叩いた。

「島での実験のこと? まあ、仕方ないんじゃない? あれは、悪い子たちへの制裁も兼ねてるわけだし」

 足田はおどける。それを秘書は厳しい目で見つめる。

「そもそも、『デスティニー』がここまで大きくなったのも、いわゆる『ドロー』を生まれつき自分に引き寄せる特異体質、ハングリッシュ元会長の『幸運』だったわけだから。これからも会社がこの規模で存続していくには『ドロー』に頼らざるを得ないでしょう」

 秘書は沈黙したままである。

「まあ、そんな感じで彼は行く先々で幸運に出会うから、周りの人はみんな不幸になっていくんだけど」

 足田は、朗らかな調子で言った。

「リンちゃん、あんまり考え込みすぎると体に悪いからね。……大丈夫! 君は何も心配なんてしなくたっていいんだから」

 足田は苦悩の表情を見せる彼女をまた不思議そうに見つめた。

「そういえばリンちゃん、もう一つ話があったんじゃないの? まあ、大方の見当はついてるけど」

「……はい。『デスティニー』本社の次期会長を決定する会議が、明後日に」

「ついに来たね」

「そろそろ出発された方がよろしいのでは」

「何を他人ごとみたいに。リンちゃんも一緒に行くんだよ?」

「はあ? ……しかし、」

 秘書はパソコンの画面に視線を移した。

「君のお遊びはもちろん、後回しにしてもらうよ? その辺の雑務だって、青山君とか、他の誰にでも代わりをやらせればいいんだから」

「はあ。でも、なぜ私が」

「僕を推薦してほしいんだ」

「推薦……」

「それが大きなきっかけになる。もちろん、リンちゃんの推薦がなくとも、僕は『会長には』なることができる。連中は無能だからね……リンちゃんはあのラルー局長の元秘書だろ? 今度の会議での発言力も相当なものだ」

 秘書は無言で頷いた。

「じゃ、そういうことで。空港で待ってるからねぇ」

 足田は陽気に手を振るとそのまま部屋を出て行ってしまった。

 残された秘書は作業中だったパソコンに目をやる。画面には、小手川社長の事件の資料が映し出されている。彼女はそれをしばらくじっと眺めるとふと椅子に座り、新たな資料を開いた。それは『ラルー局長殺害事件』と題されたファイルである。

 ——ラルー・ヒッパー (アメリカ本社事務局長)パラダイス島産コーヒーに混入された毒により死亡——

 リンはそれを眺めつつ、何か一層憂鬱な気分に襲われるのだった。

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