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チャプター1 東京

「おじさんはね、若い子のおしりが大大大好きなんだ」

 世の中紳士ばかりだと思ってた。とゆうよりも信じてた。この街の建物はどれもオシャレでキレイだからかもしれない。


 僕はネギで有名な県に生まれた。泥にまみれて遊び、よく農作業も手伝った。東京に憧れ、東京に住むようになって高いビルの屋上近くが赤く光っているのになぜか感動した。あれは何の為に光っているんだろう、といつも疑問に思った。


 東京の大学に進学した僕は王道かもしれないけれど、初めての休みに遊びにいくのは新宿だな、と思ってその人に出会った。ただでお茶をご馳走してあげると言われたので、なんて紳士な人なんだろうと思った。世の中は紳士で溢れている、とその発言を聞くまで僕は信じて疑わなかった。だって、ネギと畑以外僕の住んでいた所には何もなかったから。


「つまりはケツハンターなわけだね。お尻をハンティングしたいと願わくばさすりたいと、そしてさもあればモミたいと思ってる。ガっと強めにもみしだきたいとも目論んでいる」


 世の中はハードゲイばかりだ、とこの時思った。オシャレな建物に騙されてはいけない。東京とゆう街には魔物が潜んでいる。その魔物は色んな意味で手広く、そして激しい。僕は発狂寸前になりながらも、デザートの杏仁豆腐を口に運ぶ。とてもまろやかだ。


「どうだい? デザートは美味しいかい? さて美味しい食事と美味しいデザートを食べた後は……言わなくても解るよね?」


 おじさんは怪しく微笑んだ。もう紳士の笑顔ではなかった。獲物を捕らえたライオンのような目の奥の怪しい輝きを僕は見逃さなかった。


「デザート以外に食べる物があるんですか。凄いなオシャレな店だからまだ、デザートがあるんだ」


 何にも解らない風に、無邪気に答えた。だって、もう泣きそうだったから。このお店高そう、持ち金50円しかないしな……。


「もう一つのデザートだよ。ぐへへへへへ。言わせないでよ。グフッ」


 おじさんはかなり怪しく笑いながら照れた。やっぱりデザートの次はそっちのデザートとゆう事になるのは確実だ。でも、それも選択肢の一つとゆうよりは、もともと決まっていた筋書きの一つなのだろうか。運命とゆう奴だ。神秘性はあんましないけど。


「ちょうど、美味しい食べ物が体に吸収されて、そっちの方も食べごろなんじゃないかな」


 満面の笑みでおじさんが微笑む。ギョエー。だって、無理。そんな形でエンドロール引けない。


「じゃあ、いこっか」


 僕がデザートを食べ終わると、おじさんは赤い顔で僕を促した。指差したのは、目の前になぜかあったラブホテル。僕は今までにない力走をその瞬間に発揮した。今思うとラップタイム何秒ぐらいだろうと思う。おじさんも血眼になって追いかけてきたけど、そこは若さで振りきった。でも、まぁこうゆうのもよくある話だよね。いや、ないか。あんまり。



                   ☆




「いいか、田宮。世の中にはいい人間と悪い人間がいる。ますはそこをキチンと見極められる眼力を見につけような。田宮自身がデザートになっちゃ、意味がない。人間はデザートではない。デザートは食べるものだ。でも食べられちゃうものではないんだぞ」


 アッキーが力説する。それを僕はコクコクと頷きながら聞いた。アッキー(秋山くん)とはルームシェアのサイトで知り合った。もともと僕は学生アパートに住んでいたけど隣人のいびきに耐え切れずアパートを抜け出し、都内で安いアパートを借りようと思い行動していたのだけれど東京の家賃の高さにチキンな僕は発狂してしまいアパートを探す事を諦めていた。そんな折ルームシェアのサイトで一緒に住んでいた友達が実家に帰る事になったので部屋を格安で貸しますとゆう投稿を見て僕がメールを送りアッキーと住む事になった。

 しばらくしてアッキーが東大に通ってる事をしり僕は愕然とした。生ける学問の神が間近にいるのだ。信じられない。


「田宮はさ童顔だし、可愛く見えるから、ガッツかれんのかもな。そうゆう人に」


 アッキーは大学では落研に所属しているらしい。長身で細身でメガネをかけていて、見た目はちょっとフケてるけど後ろ姿はちょいモテそうなオーラを漂わせている。


「でもね、アッキー最初は凄い紳士に見えたんだよ。もう、それはこの人きっと捨て犬拾って育ててます! みたいなオーラを見にまとっていてさ」


「甘いな田宮。捨て犬を拾うハードゲイだっているだろう?」

 

 アッキーはニヤリと微笑み続けた。


「優しいからって、信用してはならないのだよ。東京とゆう街の光と闇をきっちり見分ける眼力がなくてはこの街では生き残れないんだ田宮よ」


「だって……」


 僕が講義をしようとしたらアッキーに睨まれたのでやめておいた。解ってる。世の中いい人ばかりではない事ぐらい、わかってる。若い子のおしりをさすりたい人がいる事もよくわかったけど、それでもそんな日々に突然舞い降りる幸福を信じたかったんだよ。僕はさ。


「田宮、明後日から夏休みだろどうすんの、予定は?」

「う〜ん」

 僕が悩んでいるとアッキーが 

「新宿か?」

 とふきだしそうな顔で聞いてきたので、首をブンブンと振って答えた。いや、もう新宿はごめんです。


「とりあえず、バイト探そうと思ってる」 

「バイト? もうバイトしてんじゃん?」」


 アッキーが訝しげな顔で僕を見返す。


「短期のバイトだから先月で期間終了なんだよ。だから夏休みをフルに働けるバイト探さなきゃと思って」

「そうか。働き物なんだな、田宮。えらいよお前」


 アッキーがポケットからハンカチを取り出して大袈裟に目もとを拭う。アッキーは勤労学生とゆうキーワードにすこぶる弱い。自分は医者の息子だからお金には困っていなくて、バイトもしていないらしい。正直どんだけ格差だよと思う。


「がんばってな田宮」 


 アッキーはハンカチでチーンと鼻をかむとそのハンカチをひらひらと振って応援してくれた。


「アッキーは夏休みは?」


 僕が聞くアッキーは頬を赤らめて答えた。


「俺は彼女とデート」

「へぇー……」


 いわくつきの視線をアッキーに投げかける。アッキーはそそくさと視線をそらす。なんだよほんと。いいなぁデート。


 彼女か……。確か、音大に通ってる子だったよな。アッキーの彼女って。名前はなんだったっけ? 


 それから僕はアッキーの作ってくれたグリーンカレーをテレビのお笑い番組を見ながら、もくもくと食べた。食べる時はもくもくと食べるのが僕たちの暗黙の了解になっていて、野生の動物じゃないけど、獲物にありついている時はとにかく集中したいのが僕らのスタイルなのだ。濃厚なグリーン野菜が溶け込んだグリーンカレーは程よい辛さで心地良く胃に落ちていく。


「あ、この人好き」


 女の子2人組みのお笑いユニットがテレビの画面に映ったので僕は言った。


「あー、わかる。お前好きそうだよな、こうゆう子。強そうな子」

「うん」


 僕ははにかんで答えた。そうなのだ、僕はなぜだかちょっと強そうな女の子が好きなのだ。グリーンカレーを食べ終えると、冷蔵庫からクリームがたっぷり入ったクリームプリンを取り出すと、レポートを書いているアッキーの隣で微笑みながらプリンを食べた。それを見てアッキーが


「お前甘いものほんと好きな」


 と呆れながら答えた。その夜は春の終わりを告げる強風が吹いた次の日で、昼間はにわかに生暖かい風が吹いていたのに、夜になるとヒンヤリと冷たい風が窓から入りこんできて肌寒い。


 僕はジャージのチャックを閉めて、さむっ、とアッキーに対して言った。でもアッキーは窓を閉めてくれなかった。最近気づいた事だけれど、どうやらアッキーは暑がりなようなのだ。僕達はルームシェアを始めた頃よりはだいぶ親しくなったけれど、まだまだ知らない事が沢山あるなとアッキーのレポートに真剣に取り組んでいる横顔を見ながら思った。



                  

                    ☆



「でさー、ちょー可愛いのケムンパスのボールペン」


 同じ学部の木下さんがロプトで売っていたらしい、毛虫のボールペンをペンケースから取り出すと見せてくれた。僕はそれを見て思った。あまりにも毛虫部分がリアルすぎて、正直可愛いとはあまり思えなかった。


「木下さん、それのどこら辺に惹かれたの?」


 木下さんは僕の肩をバンバン叩きながら


「わかんないかなぁー、チロル。この本物を思わせる立体的な毛虫のフィギュアがペンを押す部分になっている所がこのボールペンのミソなのよ。しかも、この等間隔の毛の生え方。ここまで再現されてんのよ。も、ちょー可愛い〜」


 木下さんがケムンパスのボールペンにすりすりする。そうかなぁ、とそれを僕は疑問に思いながら見返す。僕は木下さんにチロルとあだ名で呼ばれている。チロルチョコみたいに小さくてコンパクトな風貌とかわいらしさからきたあだ名らしい。男としては正直微妙なあだ名だ。


「そういえばさぁチロル。あんたバイトは見つかったの?」

「う〜ん、実はまだ……」

 

 落ち込んでる僕をよそに木下さんはニヤニヤとカバンから何かを取り出す。


「これを見なさい!」


 木下さんが自信満々で僕に差し出したなにかのパンフレットらしきものには「民宿鮫アイス」と書かれていた。


「宮城って鮫が名物みたいでさ。気仙沼漁港の近くにその鮫を使ったアイスが売りの民宿、鮫アイスがあるんだって。そこで夏の間アルバイト出来る学生を募集してるってパンフレットに書いてあったから持ってきたんだ。あたしって友達思いでしょ……ってあんた聞いてんの?」


 木下さんの言葉は聞こえていたけれどリアクションができなかった。パンフレットの表紙に乗っていたちょっとガタイのいい女の子に僕は目が釘付けになってしまったのだ。茶色のグラサンに三つ編みにした髪の毛。真赤な上下のジャージには2−A山田、と書かれている。見るからに中高生ではなさそうなその人は中学か高校のジャージを普段着代わりに着ているとゆう事なんだろう。


 いけない事なのかもしれないけれど激しく萌えてしまった。山田さんに会いたい。その気持ちは面白いように膨れ上がる。僕はパンフレットをがっつり掴むと木下さんにお礼を言った。


 そのまま夏休み前最後の授業をバックレ、僕は宮城へと向かうための旅費を下ろしにATMへと向かった。




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