そういえば
いつも通りの放課後の、いつも通りの部室にて
「そう言えば出雲、お前このあいだ白銀の家の神社行って来たんだよな? どうだったんだ?」
「あ、はい! 空からオッサンが降って来ました!!」
「うーん、全くもってその通りなんだけど、言葉にすると本当酷い内容だね」
「あー、熠のおっさんは相変わらずだな……」
「ん? ノア先生も部長のお父さんと知り合いなんですか?」
「まあな、――この学校色んな部屋に神棚あんだけど、それ用の御札とか用意して貰ってんだよ。あと私みたいな寮暮らしは初詣とかでもお世話になるしな」
「あー、言われてみればこの部室にも神棚ありますよね、なんでなんですか?」
「んー、なんかこの学校がある山自体が昔は霊山として有名だったとか、そんな話は聞いた事あるけど詳しくは知らねぇなぁ……白銀ー、何か知ってるか?」
「うん? ――いや、特に聞いてはいないかな。ただまあ夜になると父が校舎の見回りに出ていくときもあるから、もしかしたら何かあるのかも知れないね?」
「え!? 部長のお父さんって何かスピリチュアルな能力とかあるんですか!!? 高い所からジャンプすると必ず足を挫くとか走ると足が攣るとか!!」
「それただの運動不足だろ」
「と言うか猪とかが来て学校の花壇とか菜園部の畑とか荒らすからその警備だよ。――大体父の猿叫の後に野生動物が逃げ帰ってく鳴き声がするんだけど、たまに肝試し感覚で残ってた生徒がパニック起こして警察沙汰になる」
「ああ、残業で残ってると出くわすんだが、何故か白の着物に蓄光塗料で模様入れてんのはどう見てもホラーだろあれ、顔も白布で覆ってるから分かってても超ビビるんだが」
「サイバーパンクの悪霊かなにかですかね?」
「夜間での視認性を高める為って本人は言ってたね。――一回白無垢着ておしろい顔に塗って口紅引いてたんだけど、母に折檻喰らって偉い目にあってたよ?」
「あー、アレは酷かったな。たまたま肝試し感覚で来てた麓のヤンキー達が居てよ、しかも不法侵入だったから本気でビビらせに行った神主の餌食になって、翌朝泡吹いて腹に『ビバリーヒルズ』って書かれたヤンキーが校庭の真ん中で発見されたんだよな……」
「ビバリーヒルズはどっから出て来たんだよ!?」
「身内ながら一応防犯対策にはなってるから質が悪いよねぇ……」
●
一息を付き、部長に淹れて貰った紅茶を飲みながら、家から持って来た本を読もうと開いた鞄の中、見知った瞳と目が合った。
「――――」
「おおう、カブオお前今朝は学校ついて来ようと突撃してこないなと思ってたら、鞄の中に忍び込んでたのか!!」
鞄の中から手を伝い、登って来たカブトムシのカブオごと頭を揺らしつつ、鞄の中に汚れがついていないか確認していると、部長がカブオの角をつつき、
「おやおやカブオ君、勝手に少年君について来たら駄目だろう?」
「つーか、カブトムシだからカブオって安直過ぎんだろ」
「いやぁ、最初は色々考えたんですけど、部長がカブオって呼び始めたからそのまま定着ですね!」
「おっと、すまない、命名の楽しみを奪ってしまったかな?」
「そんなことありません!! 部長に命名して貰えるとか子供ポジ最高過ぎて思わずカブオに嫉妬するくらいですからね!! ちくしょう!! 何で僕は部長の子供に生まれなかったんだ!!」
「こらこら、それだと君と夫婦になれないじゃないかね」
「うひょ――――――!! どうだカブオ!! お前は疑似的な子供ポジだけど、僕は本質的な恋人で伴侶ポジだ!! どうだ羨ましいか!! って爪痛ぇ――ッ!!?」
「――――――!!」
「カブトムシと同レベルで喧嘩すんなよお前……」
いや、なんかコイツ最近自分でカブトムシゼリーの蓋を綺麗に剥いだりしてるんで、中にオッサン居るんじゃないか疑惑あるんですよね――……
●
帰り際
「そう言えば結局のところ、御札置いてある理由は分かりませんでしたね!」
「んー、ならこのまま私の家に寄って聞いていくかい? 多分この時間なら拝殿の方に居ると思うよ?」
「マジですか!! やったー学校帰りに部長の家だ――――!!」
お邪魔したら白無垢来た部長のお父さんがお母さんに正座させられてたんですけど、何で二度ネタやってんですかねこのオッサン?