飲みかけボトルコーヒー
人物紹介
白銀・夜月
文芸部の部長で二年生、少年君の恋人。
他の部員が全員幽霊部員だったため一年時から部長代理で活動していた。最近は少年君が入部してくれて人生楽しい。
教室では物静かな美人だが少年君の前では躊躇せずにグイグイ行く。
落ち着いて滅茶苦茶言うタイプ。
出雲・四季
文芸部の新入部員で一年生、部長の恋人。
文芸部に入って読書三昧しようと思ったら部長に一目惚れして部長三昧を送っている運のいい男。
巨乳好きのオパーイ県民だが直接的に手は出さない、大事なのは距離感。視線が行くのは巨乳が発する万有引力の法則だから真理です。
常時エキセントリックだが意外と常識人。
加藤・乃亜
文芸部顧問で現国教師、二十七歳独身。
部室ではもっぱらスマホ弄りながらボトルコーヒー飲んでるが、実は電子書籍。以前部室の本にコーヒー零したので、コーヒー飲んでる時は紙の本を読むのを禁止されている。
口付けて常温放置したコーヒーを気にせず飲むのでたまにトイレとマブダチになってるが止めない辺り筋金入り。
ズボラが服着て歩いてるとは部長の言。
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いつも通りの放課後、少年と部長が部室で本を読みながら感想を言い合っていると、不意にドアを開ける音と共に女性の声が響く。
「うーっす、様子見に来たぞー。」
そこに居たのは、赤みがかった黒髪を無造作に伸ばし、口にボトルのコーヒーを咥えた長身の女性。
身を包むスーツは全体的に皺が寄り、胸元は弾け飛んだボタンが付け直されずに大きく開いて下着を僅かに覗かせている。
「おやノア先生、随分と遅いご到着だね。――またお腹でも壊したのかな?」
「いや、流石に毎日便器のマブダチしてねえよ、今日遅れたのは純粋に職員会議だ。」
「え!? ノア先生職員会議とか真面目に出るタイプだったんですか!?」
「お前私を何だと思ってんだ、出るには出るさ、半分くらいコーヒー飲みながら寝てたけどな。」
「……何で常時コーヒ咥えてるカフェイン中毒なのにそんなに寝れるんですかね? まさかカフェイン全部オパーイの成長に回る特異体質とか?」
「……お前、白銀が相手じゃないとローテンションで乳ネタ繰り出すの止めろよ、反応に困るだろ。」
「いやいや! オパーイネタは僕の存在意義の一つなので消去不可ですけど、僕の信仰先は部長只一人ですから!! そこはキチンとテンション変えて信仰の純度を上げるんですよ!!」
「……もう、少年君ったら、そんなに言われたら恥ずかしいじゃないか。」
「あーー部長! 頬に両手を当てた姿勢で肘と腕で押しつぶされた巨乳の柔らかなカーブが描くその曲線はまさしく人類の辿り着いた叡智の一つ!! ありがとうございます!!」
「お前等、本当独自ルールに生きてるよな……」
「おや、ノア先生も少年君にテンション高めで賞賛されたいのかい? ――でも残念ながらそれは恋人の私だけの特権なんだ、残念だったね。」
「あーー、くっそ、加糖じゃなくて微糖にしとくんだったな……空気がゲロ甘すぎて口から砂糖吐きそうだ。」
「大丈夫ですか先生! 転職先に近所の砂糖工場紹介しましょうか!?」
「言っとくが大量生産するならお前等も必須だからな? 分かってるか? ん?」
「うん、流石ノア先生、ツッコミどころが斜め下だよ。」
「そこはせめて上っつっとけ、んで職員会議の議題なんだが、この部活も無関係じゃ無いんだよなー……。」
その言葉に、生徒二人の表情が僅かに怪訝の色を宿した。
「なんです? ノア先生が毎回ペットボトル放置してたまにヤバイ色のカビ湧いてる事が保健所に通報されたとか?」
「いやいや少年君、年がら年中よれよれスーツで胸元ガバァのノア先生にPTAから苦情が来たんじゃないかな?」
「それだとアタシ単独案件で文芸部関係ないだろ。――アレだ、最近施錠間際まで残ってる生徒が多すぎだっつう話でな。」
「あー、確かに僕達は常連ですし、最近は運動部だけじゃなくて他の部活もなんかギリギリまで残ってますよね。」
「まあこの時期は何時もの事なんだがな、ここ数年は感染症の大流行とかもあるし、ちと上の方がうるさいんだよ。」
「いつものこと?」
「ああ、少年君は地元だから知らないか、この学校、そこそこ県外からも来る生徒が多いだろう? その関係で寮が併設されてるわけなんだが、築数十年で暖房はあっても冷房がなくてね……」
「風通しは良いから昔は何とかなってたらしいんだが、ここ数年は気温上がってる関係で昼間とかえげつない温度になっててな、山合だから夜になれば涼しくなるんだが、必然寮暮らしの連中はそうなるギリギリまで冷房完備の校舎に残る訳だ。」
「あーなるほど! だから他県から来たクラスメイトが『返りたくねぇー……』とか家に居場所無い窓際会社員みたいな発言してたわけですね!」
「それ、少年君は何て返したんだい?」
「はい! 理由知らなかったんで、『分かる、僕も部長と同じ空気を一ミリリットルでも多く吸って居たいから毎日施錠時間ギリギリまで部室に居るよ! お前もか!!』って返したんですけど、よくよく考えたら彼野球部だからもし僕と一緒の理由だったらちょっと距離感考えますよね!!」
「私、生徒の恋愛観には理解がある方だが、この時期の野球部の部室は人が存在していい空間じゃないぞあれ、衛生的に問題だろう。」
「鏡見たまえよノア先生。」
「大丈夫だ、飲めないくらい味が変わってたら流石に捨てるからな。」
「それ、先生の味覚が凄い鈍感なだけなんじゃあ……」
「ああ? 言っとくが私は各メーカーのコーヒー目隠しして当てられるぞ、なんなら開封後何日経ってるかも分かる。因みに今飲んでるのは二日前のだな。」
「分かってるならそもそも一口飲んだ段階で捨てましょうよ!?」
「それがまだ飲める範囲だと負けた気がしてな――――。」
「何時もそれで負けてトイレとお友達になってるんだから学習したまえよノア先生。」
「気が向いたらなー。んで、そんなこんなで苦情来てっからお前等も早めに帰れよー?」
「そんな! 僕から先輩といる時間を奪うって言うんですか!? くそ、こうなったら秘蔵の教員マル秘帳から選りすぐりの脅迫アイテムを選別するしかないか!?」
「お前、中学のころに校長が裏山でケシの花栽培してんの上げて地元の警察から『加減してくれ頼むから』って泣きつかれてただろうが。」
「ああ、あの時は僕も焦りましたね、なんか校長の羽振りが妙に良いから後付けてみたら『イチメンノ ケシノハナ ガ アラワレタ』って感じで、まあ上げたの僕だって知ってるのはノア先生だけなんで報復とか心配ないですけど。」
「ん? ノア先生、やけに少年君と親しいとは思ってたけど、以前から知り合いなのかい? どうなんだい? 私ちょっと今、冷静さを欠こうとしてるよ?」
「真顔で圧かけてくんの止めろ怖ぇよ。」
「大丈夫ですよ部長! 小学生の頃、河原でガビガビになったエロ本探してる所を見られて軽く説教されただけですから! その後未成年でも読んで問題ないラノベ系のキワドイ小説とか幾つか教えて貰ったりもしましたけど、今思うとアレが本格的に読書始めた切っ掛けな気もするのでつまり遠い意味で部長と会えたのはノア先生のお陰です!!」
「……むう、色々複雑だけどまあ結果としては良しとしようか、それはそうと小学生時代の少年君には興味があるのでノア先生は今度時間取ってその辺り詳しく頼むよ?」
「いや普通にヤダけど……まて! わかったわかった、今度教えてやるから無言でハードカバー振りかぶんな!!」
「うん、楽しみにしておくよ、少年君も一緒にどうだい?」
「うひょー! 自分がクソガキだった頃の話を目の前でされるとか中々の拷問ですけど部長と同じ空間に居られるなら僕の返事はイエスです! アルバムとか持ってきますね!!」
「もう、あんまり喜ばせないでくれないかね? 幸せ過ぎて抱き締めたくなってしまうじゃ無いか。」
「教員の目の前で不順異性交遊は流石に止めろよー、つか今日は一旦もう帰れ、明日の職員会議でちゃんとギリギリまで残る許可取って置くから。」
「「はーい!」」
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後日
「おい白銀、凄いな! 言われた通り毎日新しいボトルしか飲まねぇ様にしたら何時もの腹痛が全然来ないぞ!」
「何を当たり前の事を言っているのかねこの教員は。」
「その代わりに校舎の至る所に飲みかけのボトル置きっぱなしですけどね!」
教頭に注意された結果、また飲み掛けを普通に飲む様になってましたけど、1か0しかできないんですかね?