熱愛
そんな衝撃的な初対面から間もなくして、ミコルから一本の電話が入った。
「好きです。付き合ってください」
ぼくにとって人生で初めてされた、異性からの告白である。
(ファーーーーーwww)
心の中で奇声を上げるぼく。
確かに異性とはいえ、ぼくらは陰キャと陽キャ。
生物としてのジャンルが違うと割りきっており、ミコルをそんな目で見たことなどなかったので、まるで食用のニワトリから「殺さないで…」と話しかけられるほどの驚きであった。
ましてやpixivでのコメントのやり取りを除くと、まだ数時間ゲーセンで一緒に遊んだだけの関係。
それに距離も遠くて、次はいつ会えるか見通しも立たない。
そんな状況で男女のお付き合いを始めて一体何になるのだろうか。
現実的に考えて意味が分からないぼくは、当然こう答える。
「ええよ!!」
即答である。
当然だろう。
今まで23年間、告白はおろか女友達すらいなかったのだ。
嬉しいに決まってるじゃないか!
相手がどんな人間であれ、人から好かれるのは嬉しいんだよ!!
こうしてぼくは人生23年目にして、唐突に初彼女をゲットしたのである。
…とはいえ男女のお付き合いが始まったからといって、遠すぎてお互い会いに行くこともできず、何か大きな進展があるわけでもない。
つまりただの遠距離恋愛。
よく自然消滅したり、相手の浮気によって終わりを告げるアレだ。
できることといえば毎晩通話すること。
口下手で相槌を打つだけのぼくに対して、ミコルは途切れることなく話題を振り続ける。
それはもはや言葉のキャッチボールではなく、一方的な投球練習だ。
ぼくは毎日欠かさず、ミコルから繰り出される豪速球や変化球をキャッチャーミットで受け続けた。
通話時間は日に日に長くなっていき、気づけば1日平均2時間である。
もしも通話し放題のプランに入っていなければ、毎日借金取りからも電話がかかってくることになっただろう。
ある日のことだ。
毎日通話しているとはいえ、これだけでは特に付き合った意味もなく何だか申し訳ないと思ったぼくは、定期的にイラストでラブレターを描くことにした。
お互いの自画像をモデルとしてイラスト化し、イチャイチャさせる。
第三者からすればキモいという感想しか抱かないだろうが、当人達は付き合って間もない熱愛カップル。
駅前で手を繋いだり、公園でキスをしたがるのが当たり前のイベント期間なのだ。
でも遠く離れた自分達はそれができない。
ならば代わりに自分の自画像同士をイチャイチャさせて欲求を満たそうではないか!
オエッ、発想が気持ち悪い!!
これが今まで送ったラブレターの例である(※実際は十数枚ほど描いているが見苦しいので割愛)
こちらはミコルの描いたラブレター。
変わっているとしか言いようが無いが、これがぼく達の恋愛だった。
そんなやり取りを延々と繰り返し、次に会えたのはそれから一年後。
前回と同じく、再び友人の富士登山旅行に同行させてもらえることになったのだ。
待ちに待った再開の時。
しかも今回はただのネット友達だった時と違い、交際している男女カップル(※何の実績もないが)
またゲーセンで遊ぶだけでは何も代わり映えしないなと感じていたところ、ミコルから提案されたのは親族への婚約挨拶をすることだった。
(ファーーーーーwww)
それは結婚の2文字が現実を帯びた瞬間。
まだ直接会って2日目(※数時間)のことである。