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作者: 松茸 たこす

十三の頃、自分は冬という季節が好きだった。正確には、冬という季節の寒さに対して好意的な態度を取った訳ではなくて冬のその景色の美しさに惹かれていたのだ。中学の頃に国語の授業で読んだ「枕草子」にて、「冬」という季節は書き手側からすれば寒いだの暖炉の炭で黒くなって臭くて好きじゃない等散々な言われようであったが、自分はそのような事は考えることは無かった。


自分が冬が好きだったのは、見るもの全てが「今年しかもう見れないのかもしれない」と感じていたからだ。一期一会の感覚は面白いことに人のみならず環境等にも表れるもので、親族や祭りをやる仲間と共に大晦日の夜から元旦の早朝にかけて行われる奉納囃子で年を越した暁には、正に可惜夜という言葉が相応しいそんな感覚を味わえたものだ。もちろん、とても寒い。でもそんな寒さが感じられない、行かねば見れぬ光景を観てそれを写真に収めるのもまた良い。冬の朝はかなり否定的に描かれていた平安だが、夜はどうなのだろうかとやはり今でも考えてしまう。そして、可惜夜という考えは昔から今まで、変わらないのだろうか。そんなことを考えて、寝に着いたものだ。

しかし、肯定的に考えていた冬は今となってはそこまで肯定的に考えられなくなった。単純に寒い。それ以外にも色々理由はあるが、ただ一つ、一番の理由を挙げるとするならば自分は冬の寒さを肯定的に考えない理由の一つとして挙げるはずだ。それと、環境の変化もある。我が家の自室で、秋から冬にかけて、また冬から春にかけて暖房をかけぬくぬくとしていた結果、割とインドア派の人間になっていた。昔は外で遊ぶのが好きだったが。それがきっかけで暖房をかけ続けてそれから外に出た時の冷風と家の暖かさのギャップの所為で割と好きになれなくなった。ただ、冬に食べる柑橘や温かい風呂や家族で囲む鍋など「家の中では」楽しめる物はある。それを含めても楽しいとは思えなくなった。


それから三年程の月日が経過し、自分は十六になった。十五の頃もこの時期大して変わらなかった。中学から高校へそのまま上がったからである。変わったことといえば、冬に対しての価値観が少しだけ変わりつつあるということだ。日に日に大人になっていく自分と、かつて雪遊びや鬼ごっこ等を楽しんでいた自分を照らし合わせて懐かしい気になる。小学生の頃、自分よりも五つは歳の離れた小学生と雪遊びをして、遊んでばかりいてそのまま五年が過ぎて世話をする立場になったのは未だ記憶に残っている。卒業してから四年は経過したが、自分がかつてお世話をしていたような小学生が今では逆に世話をする立場にいるという事にふと気づき、ノスタルジーというか時の流れをひしひしと感じた。地元はあまり雪が降らず、降っても積もることはほとんどないので雪遊びなどをするには面白さにかける。その上ちょっと土に積もった雪を丸めて雪玉を作るだけでも土が露出してみっともない。電車の広告や冬をテーマにした映画などでよくある仰向けになって手足をばたつかせるものなんぞ到底できない。それでも、雪が大して降らなくてもどういう遊びなら下級生たち、もちろん上級生も楽しめるのかというのを必死になって考える彼らの目は冬にくる厳しさを知らない無垢な目をしていて羨ましいと感じた。

なにより、小学生では絶対一人はいるのだろうが半袖で短パンを履いている痩せ我慢なのかそれとも本当に寒さを感じないのか分からない彼らをよく見る。

本当に風邪をひかないのか不安になる。実際自分は小学生の頃はその姿でも変わらなかったが、今や半袖短パンなんかでいたら、いくら部屋に暖房をかけても風邪をひくほどに体調を崩す。彼らがどんどん大人になっていって、小学生の時みたいに元気な姿を見せてくれることを自分は期待してはいるが、自分がそうではない最たる例故にまぁありえないだろうと思っている。


冬は寒くて他の四季と比べても好きではない部類に入るが、せめて嫌いな感覚を無くしたくてとりあえず散歩に出ることにした。一応、「枕草子」で酷評された早朝に外に出た。今や炭などほとんど使わない故にすすで真っ黒になるなんて事は無かった。腕を振る度に冷たい風が刺すように自分に当たる。それはやがて自分の手を冷やし、手を悴ませる。悴んだ腕は自然と霜焼けのようになり痛む。適応力というのは面白いもので、霜焼けになった手は暫くしたあとに慣れで痛みを感じなくなる。腕の感覚がこれ以上ないほどに無くなる。ものを掴めなくなるというデメリットさえ除けば冬も良いものだと感じた。


自分はもう外で元気に遊ぶような人間じゃない故、雪が降ったときの幸せなどを噛み締めることは出来ない。でも、冬の子供たちの笑い声等が止まない限り自分は冬を楽しむことは出来そうだ。


冬は皆さんは好きですか。

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