表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/91

最終話 摂理をぶん殴れ (7)光

「さてさて。そろそろ出番ね。」


 ストレアは二箇所で始まった戦いの様子を眺めていた。




 レイとミアは拮抗していた。左、右、拳が錯綜する。目にも止まらぬ速さで撃ち込まれる拳が、ミアとレイの頬を掠める。


「グェー!!」

 その余波で死んでいく魔物達。だが二人ともそこに意識を割く事は出来ていない。お互いの目は手足の動きの観察に集中しており、周りは視界にも入らなかった。まして周りに配慮する等二の次であり、攻撃を交わし攻撃を躱すだけで精一杯であった。


「ぐっ……。」


 レイは頬に切り傷を作りながら、油断なく拳を浴びせる。


 彼女は先程から、相手の、ミアの強さに疑問を感じていた。


 攻撃を当ててもあまり効いていない。効いてはいるが、致命傷とまでは行かない。


 その時点で本来はおかしいのだ。


 レイのステータスは本来の人間の上限値を超えている。それに拮抗出来るはずが無い。


 だが彼女が放つ拳の威力は、自分のそれと同等である。ガードすれば耐えられるが、ガードしなければダメージを受けるであろう威力なのは間違いない。


「ハハハハハ!!不思議そうな顔ですね!?」


 ミアは必死に拳を撃ち込みながらも、レイを嘲笑う。


「うるっ、せぇっ!!」


 レイはその言葉を振り切る。調子を崩したいという魂胆は理解していた。今は疑問は捨て置き、時間を稼ぐ事だ。そう自分に言い聞かせていた。




「レイはともかくミアはよくやり取り出来るわよね。」


 そんなレイの様子を見たストレアがポツリと言った。


 レイのステータスから言えば、ミアの拳を受けたところで痛くも痒くもないだろうし、ミアの拳を見切る事も簡単であろう事は容易に想像出来た。にも関わらず、拮抗しているというのはどういう事か。


 ストレアはミアのステータスを表示した。



 STR、AGI、VIT、様々な値が常に変動していた。0になる時もあれば、レイと同じ値を取る事もある。



「ああ……。なるほど。」


 ストレアは一人得心した。


 ミアはステータスにアクセスしているのだ。


 他のステータスを下げて、その代わり特定のステータスだけをレイと同じ値に変更しているのだ。


 普通はそんな事は出来ない。恐らくレイが使う魂牌流とか言う技の一部だろう。


 自分の世界管理システムへアクセスすると、ミアのステータスが変動するたびに、システムへのアクセスが発生している。


 恐らく魂廃流とは、システムへの不正アクセスにより、本来出来ないはずの事象を引き起こしているのだ。


 仕様バグだ。管理者以外アクセス出来ないはずのシステムへ、想定外の方法でアクセスしている。ストレアは溜息を吐いた。


 この数ヶ月でどれだけバグを見つけただろうか。


 自分の間抜けっぷりをまざまざと見せつけられると、神経が比較的図太いストレアであっても、思う所はある。


 今直すべきかとも考えたが、それは早すぎると彼女は考えた。ある理由から、今はすべきではない。


 とりあえずレイは大丈夫だろうと思いつつ、ストレアはもう一方の方に目を向ける事にした。


 ーーストレアは口にはしないし心の中では全く意識していなかったが、奥底ではレイを信頼していた。それはレイも同様だったが、二人とも決して口にする事は無かった。




 ブレイドとドミネアの戦いはブレイドが押していた。


 有り得ない事が起きているな、とストレアは思った。


 ブレイドのステータスは低い。仮にステータスの表示バグがあったとしても、魔王に敵うステータスかと言えば間違いなく否であろうという事は想像に難く無い。


 この世界の原則、ステータスが低い者に勝ち目は無い。それを破るような事が起きている。


 だがストレアには、その理由が理解出来ていた。


 その理由は、彼が持つ剣の光が示していた。



「なんだ……!?」


 ドミネアは驚愕の表情を浮かべた。言葉には焦りが浮かび、普段の飄々とした物言いは崩れていた。


「なんだその光は!?」


 だがブレイドは答えを叫ぶ事は出来なかった。


 彼にも何が起きているか理解出来なかったからだ。


 この答えを持っているのはただ一人であった。


「人の心だ!!」


 トマ主教が上空、ゴウの背中に乗りながら叫んだ。


「な、に?」


「勇者殿!!先程の決意、しかと聞かせて頂いた!!」


「え?!あ、え!?」


 ブレイドは赤面した。


「故にその言葉、人々に中継させて貰いました!!」


「ええええええええええ!?」


 ブレイドの顔が真っ赤になった。


「どういう……あっ!?」


 ドミネアは理解した。ブレイドの剣が輝いている理由が。


 そして自分が圧される理由が。


 自分の力が弱まっている。そして、勇者の力が強まっている。


 かつて自分が人間界に進出した理由の一端。魔力の集中。人々を恐怖に陥れ力を得る作戦。その逆だ。ブレイドに対し、人々が希望を持ち始めている。勇者に対して、この状況の打破を願っている。その人々の思い、祈りが、ブレイドの、勇者の剣に注がれているのだ。


「む、無駄な事をぉっ!!」


 ドミネアがブレイドに切り掛かった。


 ブレイドは一瞬で真顔になると、その剣を、光輝く剣で受け止めた。


 ガキィッ、という、剣と剣がぶつかりあう音が響く。


「ぐぅっ……!!」


 ドミネアは顔を顰めた。自分の剣が受け止められた事に。


「ゴミが、ゴミのような人間が、ゴミのようなステータスの人間が、僕の剣を受け止められるわけがない!!」


 だがドミネアは内心理解していた。


「お前も理解しているはずだ。これは僕の力だけじゃない。皆の、思いが詰まった力だ!!」


 叫んだ瞬間、ドミネアの剣がパキリと音を立てて砕けた。


「なっ……。」


 ズバァッ!!


 光の剣が下から上に振り上げられ、黒い鮮血が飛び散る。


 ドミネアの胸に、先刻ブレイドが受けたものよりも重い傷が刻まれた。


「あ……お……っ。」


「あああああああああああっ!!」


 ブレイドは雄叫びと共に、振り上げた剣をそのまま振り下ろさんとした。隙だらけ。だがその隙をつく余裕は、今のドミネアには無かった。


「ま。まま、待つんだ!!君も死ぬぞ!?」


「死ぬのはアンタだけよ。」


 ストレアの言葉がドミネアの耳に届いた。


「神……神!!」


 怒りで目が血走る。


「『ライフ共有!!』」


 ストレアは叫ぶと同時にデバグライザーのボタンを押した。


 ドミネアの怒りは収まらない。眼前の相手、ブレイドを忘れ、ストレアに向けて【ギガバーン】を放つ。


 その業火はデバグライザーで実体化されたライフ共有バグの化身によって遮られた。


「ギョェェェェェェェッ!!ナニモシテナイノニィィィィィィ!!」


 ドミネアとブレイドの体が一体化したような、二頭の人型のバグが、魔王の炎を受けて消滅した。


「ーーあーー」


 その叫び声を聞いて、ドミネアは、自分の炎がストレアの体を燃やせなかった事に気付いた。


 そして、目の前の剣が振り下ろされんとしている事に。


 ズバァッ。


 ドミネアの体が、光と共に真っ二つに切断された。




「なっ……魔王……様!?」


 一瞬、ほんの一瞬、ミアの意識がドミネアに注がれた。


「今です!!レイさん!!」


 ブレイドの叫びは少し離れた場所にいたレイに届いた。


「応!!」


 レイはミアに距離を取り、


「お前の罪は!!オレの師が裁く!!魂分(すぷりっと)!!」


 ジョセフの遺した技術(魂分)を放った。光の刃がミアの体へ向けて走る。


「しまっ……。」


 ミアは隙を突かれ、それを防ぐ事が出来なかった。


 光の刃がミアの体を真っ二つに切り裂いた。


 瞬間、ミアのライフが2から1に減り、そして、ドミネアの死にかけた肉体を使い、ミアの体がコピーされ、


「…………うっ、くぅっ……?」


「な、にが、おき……た……?」


 ミアが二人、その場に生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ