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第十一話 命の聖杯(1)

 壁を叩く。


 カンカンカン。


 壁を叩く。


 カンカンカン。


 同じ音だけが響く。


「なーにしてんのよ。」


 ストレアが冷たい視線を浴びせてくる。


「隠し部屋とか無いかと思って探してんだよ。知らんのか。壁の反響音でその先が空洞かそうでないかが分かる時があるんだよ。」


「無い時もあるんでしょ?」


「まぁ。聞いた事があるくらいで今回が初めてだからな。」


 オレがそういうとストレアは呆れた顔をした。


「もう少しいい方法があるでしょ。」


「あるならやってくれ。オレにゃ思いつかん。」


 そう言ってオレは再び壁を叩き始めた。


 横ではオレの真似をしてランがコンコンコンと壁を叩いている。



 何の話かを説明する為には、時間を少し巻き戻す必要がある。



 ミカ/ミアの失踪後、数日かけてオレ達は一度セルドラールに戻った。巫女としての彼女の情報が欲しかったのだ。それに、セディナ王とトマ主教に改めて事情を説明しなければならないというのもある。


 オレは今わかっている事を説明した。


「……ミカとミア、か。難しくて分からないが……複雑な事情がある事だけは理解出来たよ。」


「巫女とだけ呼ぶように言っていたのはそういう意図があったのか……。」


 トマ主教が呆れと驚嘆の混じった声で言った。


「確かに考えてみれば、巫女様についてはマクア元主教が全て処理していた。彼は全部知っていたのだろうな。」


 あの男の最後の言葉が思い出された。



 ーーー猫を被ってるんだよ、その女は。或いは、その女が猫なのか。



 猫とはつまりミカの事を言いたかったのだろうか。


「で、その巫女様の目撃証言とかは無いのか?」


 オレの質問にトマ主教は首を横に振った。


「少なくともこのセルドラールには来ていない。情報も無い。恐らくだが、自分の正体が特定された事を、或いはそれ以上特定される事を恐れて警戒しているのかもしれない。」


 その可能性は高いように思える。今まで二重人格を隠し通した女だ。今回俺たちに見せたのが最初のボロだとすれば、それ以上にボロを出さないように気をつけているのかもしれない。


 だが、此処に来るまでにオレ達も一応探してみたが全く見当たらなかった。オレのステータスでも見つけられないというのはどういう事なのだろうか。


「何かバグでも使って隠れているんでしょうかぁ。」


「そんなバグは無いわよ。」


 ランの疑問に対し、ストレアが吐き捨てるように言ったが、全く説得力は無い。今までだけでもどれだけのバグでどれだけの被害が出ていると思っているのか。


 そういう目で見るとストレアは「何よ」と言って話題を変えようとした。


「巫女の部屋とかは無いの?」


 ストレアの問いにもまた、トマ主教は首を横に振った。


「少なくとも私は知らない。他の追放された三人なら知っていたかもしれないが、今朝から行方不明だ。」


 行方不明?今朝から?どういう事だろうかと訝しんでいると、彼が続けた。


「この街に居たはずなのだが、今朝から連絡が全く取れなくなり、拘束用に用意していた家はもぬけの殻。巫女との関連は不明だ。ーーー監視をつけていなかったのは失敗だった。」


「そこに人を割けないというのもありましたが……少し甘すぎたというべきでしょう。申し訳ない。」


 セディナ王子、いや、セディナ王が頭を抱えた。


「いや、アンタが謝る話じゃない。ただ、捜索はした方がいいとオレは思う。」


「勿論。今兵士を派遣して捜査しています。」


 それが良い、と言いたいところだが、それを待っていると時間が掛かる。オレ達の方でも何か調べた方が良さそうだ。


 ……何を調べたものだろうか。


「手掛かりを探そう。マクア元主教の部屋は?」


 そう聞くとトマ主教が首を横に振った。


「我々の方でも調べたが特に何も無かった。調べるというなら無論止めはしない。貴方達の方が様々な点に目が届くのは、間違いないだろうからな。」


 そうかもしれない。では、と頼むと、トマ主教が先導してくれた。オレ達は彼に続いて、今は綺麗になった廊下を歩き、城と連絡通路が繋がっている別館のような建物の、一番奥の部屋へと辿り着いた。


「おっきい部屋ですねぇ。」


 入ってランが言った。確かにデカい。先程居た王の間より広いかと錯覚するほどである。


「この建物は元々教会のために作られたものだが、その中でも最も広い部屋だそうだ。設計の主担当はマクア元主教、そして設計図は今は何処かに消えている。……貴方方なら言いたい事は理解してくれるだろう。」


「マクア元主教が如何に好き勝手出来たか。」


「それに、この部屋に何か隠すのも、好き勝手出来ただろうな、という事ね。」


 オレ達の言葉に、トマ主教は首を縦に振った。


「だが、その証拠は無い。隠しているものがあるのか?あったとしてそれは何なのか?それについては分からん……。有り得るとすれば命の聖杯だろうか。」


「命の聖杯?」


 あれがどう関係してくるんだ。


「あれを見つけたのは巫女様とマクア元主教なのだ。そして、それを各地の教会に送っていたのもまた、マクア主教だ。ともすれば、その製法などは見つかるかもしれん。」


「なるほどねぇ。ちなみにどうやって作るか、アンタは知ってるのか?」


「いや、神の御技とだけ。」


 するとストレアがニタリと笑った。


「教えて、あげま、しょうかあ?」


 ストレアの脳天にオレの手刀が落ちた。


「やめんか。」


「いてっ。」


 ストレアの頭が文字通り凹んだ。


「……何故そんな姿で生きられるのかが分からんのだが……。」


 トマ主教が唖然としながらその姿を見て言った。


「気にしないでくださぁい。この人こういう人なんですぅ。」


「どういう人よ。まぁいいわ。ロクでも無い製法よ。アタシが考えたんだけどね。」


 ストレアがそう言うと、トマ主教はむむむと顎に手を当てて考え込み始めた。


 まぁ、彼に直接伝えるのは、まだいいだろう。


「……とりあえず、探してみるか。」


 そう言ってオレは先の行動を開始した。

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