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第八話 教会の連中をぶん殴れ(5)

 翌日。


 オレはまたこっそりと城に忍び込み、ある場所に行き、そして戻って来た。


「ほいコレ。」


 オレはストホを取り出した。


 昨日帰る前に、マクア主教のポケットにこっそりと忍ばせておいたのだ。


「よく気付かなかったわね。」


「小太りだったし結構ブカブカの服着てたからな。気付かなかったんだろう。」


「早速聞いてみましょー。」


 オレはランの言葉に応え、再生ボタンを押した。



『巫女らしき奴は見つからんのか。』


『はい、まだ見つかりません。』


『平原で目撃証言がありましたが、派遣した騎士達は戻って来ておりません。』


『ええい面倒な。とっとと見つけてこい。』


 そう言うと騎士達の足跡が響く。


『……はぁ。しかし、まぁこの椅子は座り心地が良いな。デイドリーには不釣り合いというものだ。奴め。無様な姿で死んだものよ。わしが裏切らないとずっと思うていたのだろうか。馬鹿な奴だ。二言目には金だ金だと無心ばかり。あの世で悔やむがいい。わしに楯突いた事と、巫女様の不在をな。』


 椅子から立ち上がる音が聞こえる。


『しかし問題は巫女様よ。近くに居た従者を殺してでっち上げたはいいが、まさか戻ってくるとは。生きていられると困る。とっとと殺してしまうしかないが、果たしてどのようにしたものか。』



「……ということだ。独り言が多いな。主教様。」


 オレは王の間で同じものを再生し終えながら言った。場にはマクア主教とトマ司祭、そして唯一、王の配下で何を逃れ政治に纏わる事柄を任されていたという、サバイ大臣が居た。


 オレ達は平原でこの音声を確認した後、城に突入、さささささっと王の間へと侵入した。


 道中騎士達がやってきたが、ランの炎とオレの拳法で処理した。勿論殺しはしていない。峰打ちという奴だ。


 そうやってマクア主教を捕まえ、恐らくこいつを裁ける立場であろう連中を呼び出した、とこういう次第である。


「……今のは本当に?」


「これはこの女が仕掛けたもの。この女は機械に疎いから、でっち上げたりなんて器用な真似は出来ない。つまり、実際の会話ってことよ。」


 ストレアが言った。色々と引っかかる部分はあるが、まぁそれは良しとしよう。


「さあてさあて、何か言い逃れはあるかしらあ?」


 ストレアがニヤニヤしながらマクア主教に尋ねた。こいつこういう事になると生き生きするよな。


「知らん。こんな、こんな事言っておらん。」


「おやおやしらばっくれですか。いいんですかあ?本当にそう言い張るならそれでもアタシはぜんっぜん構いませんけれどもぉ。」


「それを他の信徒の前でも言えるか。」


 トマ司祭が詰め寄った。


「こんな事をほざいた貴様が国を治めるだと?ふざけるな!!わしは、わしはデイドリー王に仕えていたのだぞ!!かの王が不義を働いたと聞いたから貴様の、国を治める手伝いという申し出を已む無く呑んだというのに、これが実態か!!」


 サバイ大臣が声を荒げた。


「お、おいおいお前達、こんなどこの馬の骨とも知らない連中を信用するのか?」


「この声は明らかにお前の声だ。」


「いやいや、こんな怪しげな奇術、何の証拠にもなりはせんだろ。」


「だが私は貴様と面識があるようだ。」


 トマ司祭の怒号とそれを躱そうとするマクア主教。その間に割り込んだのは、巫女様とおぼしき彼女であった。


「朧げだが、貴様の顔、見覚えがある。確かに以前、一度は見た事があるようだ。」


「だ、だからなんだと?貴様が巫女様かどうかの確証もあるまい。」


「いや、巫女様ならば指輪を持っているはずだ。」


 声を張り上げて誤魔化そうとするマクア主教を、トマ司祭が制した。


「あ……。」


 主教にも思い当たる節があったらしい。


「巫女よ。手を見せては貰えまいか。」


 トマ司祭の言葉に、巫女は頷き、手を上げた。


 そこには金の指輪があった。命の聖杯を模した飾りのついた指輪が。


「あー。命の聖杯のレシピのオマケね。見つけた人なら作れるようにしておいた奴。」


 ストレアが言った。


「これは私が気付いた時からずっと付いていた。外した事もない。そう考えると、きっとこれは、元々私が付けていたものなのだろう。」


「……これは巫女様にだけが持っているもの。そのはずだ。そうであろう?主教。」


「むぐ、ぐ、ぐ。」


 どうやら思い当たる節があるようだ。


「と、いう事は。」


 教会騎士達がトマ司祭が腕を上げるとやってきた。


「次に裁きを受けるのは、貴方という事だ。マクア主教。国家転覆の罪は重い。我ら教会の法に照らしたとて、このような殺戮を先導した罪は償われなければならない。」


「む、ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……。く、ぅ。」


 力み、何か手を考えようとしていたようだが、やがてマクア主教は項垂れた。諦めたようである。


「という事は、私はやはり巫女という事で良いのだろうか。」


「そういう事になると思います。最初の時点で信じる事ができなかった事、お許し下さい。」


 トマ司祭が膝を付いて頭を下げた。


「止めてくれ。私は自分が良く分からないし、何より私が何故死を選んだのかも分からない。ともすれば、何か罪を犯したのやもしれぬ。それがはっきりするまでは、巫女ではなく、ただの一人の人間として扱ってほしい。」


「……へぇ。」


 本意か否かは置いておいて、ロクでもない宗教の開祖であるはずの巫女だが、随分と殊勝な考えを持っている。これでドミネア教なんてもの作ってなければオレも評価出来るのだが。


 ……ん?


「ちょっといいか?」


「なんだろうか。」


「ドミネア教の興りって、数年前じゃあなくて数十年前だよな?にしてはこの巫女さん、若すぎないか?」


 彼女はパッと見た感じ二十歳かもう少し歳を取っているという程度にしか見えない。一つの宗教を、国教まで上り詰めた宗教を、たかが五歳か六歳、下手するともっと若い奴が作り出す事なんて出来ないと思うのだが。


「……気にした事が無かった。確かに。」


「ハッ。」


 疑問に思い始めたオレ達を、騎士達に押さえ込まれたマクア主教が嘲笑った。


「猫を被ってるんだよ、その女は。或いは、その女が猫なのか。」


「どういう事だ?」


「何れ分かる。その女がどうしようもない悪女だという事がな。」


 その時、彼は手元の箱を開いた。


「わしはどうせ死ぬ。裁判で死ぬか、その女が記憶を取り戻したら死ぬか。何れにせよ死ぬならば、」


 箱は見覚えのある模様をしていた。三回目だ。


「避けて下さいぃ!!トラップボックスですぅ!!」


 ランの絶叫でその場に居た全員が体を屈めた。


「わしは死ぬ!!だが!!貴様らも死んでもらうぞ!!」


 マクア主教の言葉とともに、バグったトラップボックスから、王の間を破壊しつつ、巨大な何かが顕現した。


 驚愕する騎士達が逃げ惑う中、マクア主教はその合間を縫うように駆け抜け、窓から飛び降りた。


「あっ……。」


 ランが止めようとしたが、間に合わなかった。


 窓の外からグシャリという嫌な音が聞こえた。


「……お前のせいじゃない。まずはこっちだ。」


 ランを慰め、そして意識をこちらに戻させた。


 顕現したそれに。


 それは黒く、デーモンのようなツノを生やしたドラゴンであった。

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