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第五話 島のバグをぶん殴れ(4/完)

 翌朝、オレは集落の長、エスティオを訪ねた。


「昨日のあんたかね。どうしたんじゃ。こんな朝に。」


「一つ聞きたい。アンタはこの島から出られるとしたらどうする。」


「……またその話か。やめてくれんか。無理な事を、無駄な思いを考え起こさせるのは。」


「真面目に聞いているんだ。」


「……。」


 彼は寂しげに言った。


「もう、わしの家族は死んでいるだろう。わしが死んだと思うたまま。そんなところに帰ったところで、という気持ちもある。」


 杖を握る手に力が入った。


「じゃがそれでも。それでも帰りたい。一度家を見たい。墓でもいい、家族と会いたい。そう思わない日は無い。……じゃが考えれば考える程悲しくなる。帰れないという事実に打ちのめされる。島に流れ着いた連中は、皆そうじゃ。帰れるものならと皆が思っておる。それでもそれを口にしないのは、口にしても悲しくなるだけだからじゃ。……無駄だと分かっておるからな。」


「……船はないのか?」


「昨日話したじゃろ。無駄じゃよ。」


「頼む。教えてくれ。」


 オレが真剣な顔で尋ねると、彼は渋々答えた。


「……デカい船が漂着した事があってな。乗員は全員死んでおった。恐らくあんたらが言う『海の悪魔』にやられたんじゃろう。諦めきれない若い衆が、こっそりと直しているのを知っておる。多分じゃが、あんたらが乗って来た船と合わせれば、何とか全員乗り切れるとは思う。じゃが完成はしていないし、出航したところで結局は沈没するのが目に見えておる。」


「分かった。」


 そう言ってオレは家を出ようとした。


「待て。どうする気じゃ。」


「あんたらの夢を叶えてやる。」


「余計なお世話じゃ。無理に決まっておる。」


「誰が決めた。」


「……強いて言えば、天の定めか何かじゃろうか。」


「ハッ。天とやらがそんな事決めるわけあるか。仮にそうだとしたら、そんな定め、」


 オレは一度振り返って言った。


「オレが(こわ)す。」


 そう言って止めるエスティオを振り切って、自分の寝床へと戻った。



「スピー。ガー。」


「んもう、ストレアさん煩いですよぉ。」


 寝床に戻ると、ストレアがいびきを掻いて寝ていた。ランが苦い顔をしながら起こしている。


「ムニャ……もう、疲れてんのよぉ。揺れでゲーゲー吐いたし……。」


「悪いがもう一働き、いや三か?してもらうぞ。」


「えー?嫌よー。アタシは神よぉ?少し働いたら少し休むの。どーせこっから出られないわけだしぃ。」


「帰れなくてもいいのか?」


 それを聞いて奴は飛び起きた。


「帰る決意出来たの?OKOK帰りましょうバグを倒してさあ帰りましょう!!ここの連中なんて放っておいて……。」


「ダメだ。全員連れて行く。」


「はぁ?」


「何か方法でもあるんですかぁ?」


 ランの素朴な質問に、オレは強く頷いた。


「……あ、嫌な予感がする。」


 ストレアが暗い顔をしてそう言った。その予感は当たっている。




 翌日。


「これは……!!」


「なんでこんな……!?」


 エスティオとジェイソンが驚愕の色を見せた。


 そこには船が二隻。完全な状態で泊まっていたからだ。


「あれは、あれは未完成だったはずでは……?」


「それに私の船も、修理が必要だったはず……。」


「オレ達で直しておいたぞ。」


 そう言ってオレ達が船から降りた。


「んまぁー、恰も自分が直したかのような言い方するんじゃないわよ。直したのはアタシ。アタシの力だけよ。アンタはその馬鹿力でこの船を持って来ただけでしょオロロロロロロロロ。」


 まぁその通りではある。昨日、島の住民に船の場所を聞いて向かった先で、ストレアに「お前が直さないと永遠に帰れないぞ」と脅し、二隻分指パッチンで直して貰ったのだ。これに関しては素直に感謝しかない。彼女がいなければ、オレも直せなくはないが、少しばかり時間を要しただろう。この短時間で修復出来たのは、彼女のお陰だ。


「それとコレ。コレのせいでこの島から出られなかったんですぅ。」


 そう言ってランが、バグが具現化した、黒い海竜の首根っこを持ち上げた。


「こいつをだな。」


 オレはその黒い海竜の頭にバコンと一撃手刀をくれてやった。


「フゲェ。」


 海竜は塵になって消えた。


「この島の呪いを具現化した。それを今オレが倒した。これで帰れるはずだ。」


「……馬鹿な事を。そんな事出来るわけがない。」


 エスティオが唖然としながらも言った。だがその顔には、もしかすると、という思いが芽生えつつあるのが見て取れた。


「そう思うのは勝手だ。だが実際、これで帰れるはずなんだ。信じてくれ。何かあったとしても、オレが何とかする。……アンタ達にも、子供達にも、希望を持ってもらいたいんだ。」


「……。」


 エスティオは考え込む。何か視線を感じたのか振り返ると、彼をじっと、集落の子らが見つめていた。


「僕たち、お父さんお母さんの家に帰れるの?」


 その言葉が決定打になったのか、エスティオは目を瞑り、そして開くと、言った。


「……一度だけ、信じてみよう。集落の皆に伝えるんじゃ。帰る支度をせよと。」


 彼の言葉に、集落の若い集と子供達が急いで駆けて行った。


「船乗りは?」


「十年くらい前じゃが、経験がある連中がおる。大丈夫じゃ。」


「我が船からも一名、補助要員をつけましょう。」


 ジェイソンの言葉に、エスティオが深々と頭を下げた。


「有難い。」


 話がまとまったところで、一つ先に言っておかないといけない事があった。


「あー、ただ一つだけ。オレ達は護衛にあたる事にするんだが、その、驚かないでくれよ。」


「驚く?」


 そう言ってオレはランに目配せをした。ランはドラゴンに姿を変えた。


「私達は皆さんの船にこの姿で着いていきますねぇ。」


 エスティオとジェイソン、そして他の船乗りや子供達があんぐりと口を開けて絶句した。


「ど、ど、ど、どどどどど。」


「まぁ落ち着いてくれ。こいつはランの化けた姿だ。アンタらに危害は加えない。オレが保証する。オレのステータス見てくれ。億が一何かあればオレが何とかする。」


 そういうと彼らはオレのステータス欄を見た。見た全員が驚愕の表情を浮かべた。


「な、なんだこの数字!?」

「いち、じゅう、ひゃく…?!」

「アンタらは、一体……。」


「オレ達は「アタシ達は神よ!!この世界の創造神!!崇めなさい!!奉りなさブギィ。」


「お前はややこしいから黙ってろ。……コホン、あー、その、なんだ。大したもんじゃあない。ただアンタらに希望を捨てて欲しくない、ただのお節介だよ。」


 オレはちょっとだけ格好をつけた。



 二隻の船が海を行く。それをオレ達は空から眺めていた。


「多分この辺にバグがあったと思うから、一応注意な。」


 オレは昨日ストレアが引っ掛かった場所に差し掛かったところでランに言った。


「はぁい。でもバグはさっき倒しましたよねぇ?」


「それでも何かあるかもしれないからな。」


 ここで何かあれば、彼らの希望が完全に潰えることに成りかねない、万全を尽くすつもりで警護しなければいけないだろう。


 とか言ってると突然、海が割れた。


「アァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 口がない化け物が突然襲いかかって来た。口が無いせいか唸り声のようなものとかあげられていない。


「あれは……海竜?」


「そのゾンビね。アンタが殺した奴がゾンビになって戻って来たみたい。」


「船を狙ってますよぉ!?」


 ランが焦った様子で言った。



 船員が慌てふためく。乗客や子供達が涙を流す。


「ああ……やはり。」


 エスティオが船の上で嘆いた。


「だから言ってるだろ。」


 オレはランの背中から跳躍した。人々の視線がこちらを向く。知ったことか。


「呪いも!!ルールも!!オレが(こわ)すってな!!」


 そして蹴りをそのゾンビに対して放つ。


「破ァッ!!」


 ゾンビの脳天に直撃したその蹴りが、眩い光を放つ。相変わらずこの光には慣れない。


 魂牌流奥義・輝離愛(でりいと)蹴り。ゾンビのような死霊族向けの技。魂を浄化し消滅させる必殺技である。


 本来であれば自身のINTとLUK、DEXに依存して一撃必殺の有効無効が決まるのだが、オレの場合は当然のように有効となる。当たった瞬間にゾンビ海竜は光に変換されていった。何せ桁違いだからな。こういう時はステータスが高いことに感謝したくなる。


 後に残されたのは、船首に仁王立ちするオレと、全く無傷の船だけだった。


「あ、あ、あ?」


 エスティオがあんぐりと口を開けている。子供達が「かっこいー!!」などと歓声を上げている。ちょっと照れる。


「さぁ呪いなんて幻想は終わりだ。進めーッ!!」


 そう叫んでオレは海へ飛び込む。瞬間、急降下したランに拾われて無事再び空へと上がった。オレの上げた声に応えるように、船は海を進んでいく。


「かっこよかったですぅ。」


「ふふん。」


 たまにはちょっと胸を張ってみる。嫌味かこいつと言いたげな目でストレアが見てくるが、その視線は無視する。


「さ、行くぞー。陸地へ!!」


「はぁい!!」


 ランは翼をはためかせ空を舞い、二隻の船に続く。目指せボルメイナ大陸。ドミネア教の真実か何かを暴くためにも。

ここで五話が終了となります。

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