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第四話 街の教会をぶん殴れ(1)

「いやいや、もう少し。」


「いやいや、もうこれが。」


「いやいや、もっと行けるって。」


「いやいや、これで限界だよ。」


 何の話かと言えば簡単で、素材の値付けである。



 ランを加えて三人……二人と一匹のパーティとなったオレ達は、駆け足で隣の街、トゥリニアへとやってきた。ここは港もあって活気のある街だ。ダンジョンで拾った魔物の皮や肉、そういった資材群もよく取引されている。ここであれば高く売れるだろうと踏んだオレ達は、揚々と店に入って値付けを依頼した。だが聞いた値段は、予想よりちょっと少なかった。3000ゴードは堅いと思っていたのだが、付いた値段は2000ゴード。もう少し欲しい。


 ランがブレスを吐き出しそうになったので止めたりしながら、何とか交渉した結果、辛うじて2200ゴードは貰える事になった。


「まぁこれでもある程度は持つだろう。」


 一ヶ月とはいかないが、数週間は持つ。大切に使う事にしよう。


「まずはこれを元手に「ギャンブルで増やしますか。アタシ一度やってみぶげっ」


 オレの怒りの拳がストレアの顔面へ打ち込まれた。


「……元手に次のダンジョンに行って、また狩りをしよう。な?」


「……ふぁい。」


 ストレアに持たせると使い込みそうなのでオレが持つ事にした。


「お姉様ぁ、ランお腹減りました。」


 街に着くのに一日。ずっと水しか飲んでいない。腹が減るのも仕方ない。ストレアも頬を細めて「何か…食べ物…」と呻いている。オレ達に至っては二日食べていない。流石に限界だ。何処かで食事を摂る事にしよう。


「ランは何が食べたい?」


「えっとぉ、じんに」


「ダメ。」


「冗談、です。えへへ。」


 洒落になってないんだよな、この娘の場合。


「アタシは高級ステーキとかいいなー。後はぁ、チョコレートフォンデュみたいなぁー。」


「高級ステーキはともかく、そのチョコ……何とかって何だ。」


「ああ未開人が。チョコレートフォンデュも知らないなんて遅れてるわよねぇ。まぁ、地球みたいな後進星と比べても更に千年くらい文明が遅れてる後後進星だから?仕方ないかぁ。」


「ラン。」


「はぁい。この人食べていいんですねぇ。」


 人目がつかない場所だったのでランはドラゴンに戻りストレアを齧った。


「やめて!!歯形がつく!!冗談!!冗談じゃないの!!なんでもいいから肉を食わせてくれればいいわよ高級な奴ね」


 ストレアの顔に歯形がついた。


「さりげなく要求する辺り抜け目がないというか図々しいというか。」


「道中話聞きましたけどぉ、本当にこの人神様なんですかぁ?」


「ラン。普通の人間はな、ランが噛んだら千切れて死ぬんだ。気をつけろ。」


「……うわぁ。」


「うわぁって何よ。」


「想像したら怖くなっちゃったですよぉ。人を噛むのはやめますぅ。」


「ランは良い子だなぁ。」


「えへへ。」


 よしよしと頭を擦るオレと、笑みを浮かべたランに、ストレアが挟まれている。自分で言うのも何だが、オレの胸は大きい。ランの胸も大きい。その二つの谷間に、平べったい板が不服そうな顔で挟まれている図は、よくよく考えると男共が鼻の下を伸ばしそうな光景だった。真ん中の板に目を瞑れば。


「やめような。」


「そうですね。」


「当て付けよね今の。アタシのこれに対する当て付けよね?」


 ストレアが自分の胸を指差すのを無視して、オレ達は今夜の食事と寝床を探し、一泊した。


 出てきた肉は牛の肉だった。ランはドラゴンの肉が出てきたらと恐れていたが、杞憂に終わった事で満面の笑みを浮かべながら肉を噛み締めていた。オレ達はというと、減りきった腹を満たすべく、必死こいて出てきた料理を平らげるのに必死だった。




 結局その食事だけで、得られた収入の半分を使ってしまった。




 翌日。


 オレは残穢の念に駆られていた。


「ああ……何故……何故あんなに喰っちまったんだ……。」


 考え無しにも程がある。泊まった宿の料理は確かに美味かった。心底美味かった。それがいけなかった。あれも食べたいこれも食べたい、そんな欲求が浮かぶような食事の数々。そしてそれを食べても問題無い、いや、それだけの量を食べないとやっていけないような腹の減り具合。それらが重なった結果がこれだ。


「美味しかったですねー!!」


 ランが悪意の欠片もない笑みを浮かべた。


「まぁ使っちゃったものは仕方ないわよ。きりきり働きなさい。」


 ストレアが悪意の塊のような笑みを浮かべた。


「ああ……仕方ない……そうする。」


「とりあえず昨日は腹が減って気付かなかったけど、バグの匂いがするわ。それをまずは潰しましょ。」


「この流れでまず金にならない仕事を提案してくるお前を殴りたいが、今はそういう気力も無い。」


「安心なさい。上手くやれば金になると思うから。」


「なんでですか?この間の黒いのはパッと消えちゃいましたよね?素材とか残らないんじゃないですか?」


 ランの質問に、ストレアはある場所の扉の前に立ってニヤリと笑って親指で示した。


「此処から匂いがするからよ。ちょーっとバグかどうかは分かんないけど。」


 そこはドミネア教の教会であった。


「ここかぁ……。あんまり入りたくねえな。」


 教会に良い思い出はない。


「バグかどうか分かんないってどういう事ですぅ。」


「微妙に匂いが違うのよね。システム的な不具合も見当たらなくてデバグライザーにも反応無いし。」


「じゃあ何も無いんじゃねえの?


「念の為の確認よ。本当にバグがあったらアタシ達に礼金とか出るかもしれないし。」


「どうだか。」


 教会はケチである。


「さ、とっとと行くわよ!!」


 ストレアは肩を張ってのっしのっしと歩きながら教会の扉を開いた。オレとランは止む無く彼女に続いて扉を潜った。

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