1. 鏡が多い! ☆
長岡更紗様主催『肉の日マッスルフェスティバル企画』参加作品です。
※テンプレートは後書きに貼ってあります。
物語の時間軸は本編終了後の数ヶ月後の設定ですが、ストーリー自体には全く影響ありません。ですがテスの未来が少しだけ垣間見える、おトクな内容となっております。
その日、あたしはついに疑問を口にした。
前々から疑問に思っていたのよね。ここ、太陽系地球連邦政府法務省安全保安局所属下超心理学研究局能力開発部第4研究所兼能力開発トレーニングセンター、通称レチェル4って内装に鏡が沢山使われているの。
それもね壁一面が鏡貼り、ダンススタジオ仕様かって言いたくなる、全身の映り込む特大サイズのもの、が。
ロビーにランチルーム、更衣室にトイレット。トレーニングルームはわかるにしても、研究室内にまであったりする。果ては会議室から、個別指導の面談室にまであったのを発見したときは、「これはきっと鏡のウラに監視人が隠れているに違いない」と思っちゃったわよ。
ほら、よくTVドラマであるじゃない。刑事が取調室で容疑者を尋問に掛けるシーンで、隣の部屋からその様子を覗いている……って。鏡がマジックミラーになっていて、取調室からは見えないけど、向こうからは丸見えって云う。あれ!
建物内の共同空間や各オフィスの窓だって、清掃ロボットが頑張っているおかげでピカピカに磨かれて姿が映り込むくらいだから、そこら中鏡だらけって印象なの。
その昔、なんとか宮殿にそういう鏡を多用したお部屋があったらしいけど、まさかそれを真似したわけじゃないわよね。だって、舞踏会なんてやらないでしょ。
まあ、おかげで秘密の政府機関だっていうのに、建物内はびっくりするくらい明るくてきれい。相乗効果なのかしら、清潔感も上々で好感度高し!
だって、秘密の研究所なんて言ったら、ジメジメ~と陰湿そうなイメージでしょ。それがないんだもん。良いことだわ。
――って言うか。
レチェル4がジメジメ~だったら、陰々滅々な雰囲気に取り込まれ、あたしの気分は落ち込み続け鬱の沼から這い上がれず、精神不安定路線を走り続けることになると思う。
でもね。あちこちに人影が映り込んでいるって云うのは、始終誰かに見られているようで、落ち着かない気持ちになるの。
「……そう思いませんか?」
午後3時過ぎのランチルーム。テーブルの上には、甘めのカフェラテとマカロン。うららかな陽の光が、西に傾きかけた時刻だった。
すると対面席に座るたこ入道のキモかわキャラクター……もとい、あたしの監督官兼能力者不法犯罪特別捜査班《TICOIS》の局長でもあるジェレミー・オーウェン上級捜査官がぶっとい眉毛を動かした。
「あら、甘いわね。テスちゃん」
オーウェンさんは言う。
重低音のオネエ言葉も苦にならなくなってきた、今日この頃。
「能力者たるもの、それもA級許可証を持つトップクラスの能力者たるもの、いつ何時もそれらしくあらねばならないのよ。
テスちゃんだって、准A級能力者でしょう。
能力者の中の能力者。超常能力を持って生まれた者たちの目標、憧れ。そのためには、常日頃からの心構えが!」
黒のタンクトップからはみ出た立派な大胸筋が、破裂しそうに自己主張を開始する。今日も元気にお肌が光って……イマス、ネ。ははは。
「あの、それと鏡が……」
オーウェンさんの迫力にたじろぎながらも、踏ん張って続きを促す。
がんばれ、あたし。
「鏡に映る自分の姿を見て、姿勢を正し、向上心を養うのよ!!」
自分自身に向き合えってことか。
「そうよ! 心の乱れは隠しているつもりでも、我知らずのうちに表面に現れちゃうのよ。自らを厳しく律し能力を制御せねばならない能力者が、そんな甘いことで良いと思う?
ダメよ。それじゃあ、ダメ。
厳しく自分に向き合い向上するためにも、真実の姿を鏡に映すの。心と能力とお肌は、常に磨いていかなくっちゃ!!」
そーなんだぁ。あたしは感心する。
「それにね、テスちゃん。あ……――」
と、ここでオーウェンさんに呼び出しコールが入ってしまう。
イモムシみたいな眉毛と髭を上下にぴょこぴょこ動かして、実に不満そう。黒のタンクトップ下の大胸筋まで動いている。
ああん。オーウェンさんの場合、風貌がコミカルなんですもの。どんな仕草もユーモラスに見えてくるわ。オネエ言葉には免疫が出来たけど、ふとした行動に可笑しさが膨れ上ってくる時があるの。
(例えば、今みたいな――)
笑っちゃいけないと視線を反らせた先に、話題の特大サイズ鏡が。しかも、そこにしっかり映り込んでいたオーウェンさんの姿を見つけちゃった。
ああ、あたしの中で笑いの虫が暴れている。
ごめんなさい。
そんな不届きな部下の気持ちを知ってか知らずか、ゆるキャラみたいな風貌の上司は話の中断を詫びながら、急ぎオフィスに戻っていった。
「んなわけ、ないやん!」
「そやで!」
いつの間にかあたしのうしろには、アダムとディーが立っていた。
同じ特別捜査班のメンバーで、あたしなんかより超優秀な上級捜査官で、超常能力A級認定証も持っていて、元火星某所の諜報特務庁の諜報員で、以下色々表には出せないお仕事も熟してきたというレチェル4ナンバーワンの有能コンビ。
あー、びっくりした!
「騙されたらあかん」
ふたりは同調して首を横に振った。
明るい茶色のサイド刈上げ短髪、垂れ目顎割れ四角顔がアダム。ロングの金髪で眼鏡掛けた優男風面長顔がディー。
雰囲気が似ているから二卵性双生児みたく見えるけど、実は赤の他人。でも超常能力の波長がとても似通っているの。だから双子みたくそっくりに見える。
ううん、そう視せているのよね。その方が、お仕事上都合が良いから。
動作を同調させるのも、錯覚を増長させるためね。
「この施設に必要以上に鏡が設置されてるンは、おっさんと医師のせいや」
オーウェンさんとヨーネル医師の?
理由がピンとこなくって、あたしは頭を捻った。
「おのれの筋肉を自慢しとうてたまらへんのや」
「マッチョの悪癖やな」
「もひとつおまけに、おのれの筋肉に酔いたいンやろな。それやから、年がら年中黒のタンクトップにピチピチパンツで歩き回りよる」
「それもはた迷惑な話やな」
「目の毒言うたら、暇があればしとるポージング。目障りやないか。なんであないにポージングせなあかんねん! おっさんらの筋肉なんぞ見ても、おもしろうもなんともあらへんわ!!」
「まあな。マッチョメンちうのは自己陶酔の塊なんやな。こんだけあちこちに鏡を置いといたら、いつ何時だろうと筋肉の状態をチェックできるし――ちうか、そのための鏡の大量設置やろ。ほんでも、こうも沢山あると有り難い通り越して、うっとうしいわ!」
「頭来て撤去要請出したら、おっさんがしゃあしゃあと言いよった。AIモニターのチェックやのうて、己が『肉眼』で確かめたいンやて」
『肉眼』――そう言ってアダムが右人差し指で右目を指すと、同時にディーが左人差し指で左目を指していた。
「ビジュアルは大事ちうのは、なんとなくわからんでもないけどな」
「せやな」
あれ、そこは同意!?
まあね~。モデル並みの体型の持ち主であるアダムとディーは、とってもお洒落。毎日ファッションは、バッチリ決めている。
ただし趣味はコスプレなので、今日はふたりそろって消防士の格好。周囲の好奇の視線と不快感を集めている。
うっとうしい度は、オーウェンさんと変わらないのでは?
「せやけど、こらやりすぎやろう。そう思わへんか? 目を向ければ鏡、振り向けば鏡や。ここは迷路か!」
「えげつないやろ」
「あとから見え透いた理屈を付けるんやったら、職場におのれの趣味を持ち込まんといて欲しいわ!」
「なあ?」
ああ。素直に同意できないのは、誰のせいだと思っているのだろう!?
これだけ鏡があるのだから、我が身も写してチェックしてみてよぉ。アダムとディーだって、細マッチョじゃない。
でもあなたたちがチェックするのは筋肉じゃなくて、周囲から浮いたコスとそれに対するみんなの反応の方ね!
「職権乱用や」
突然飛び出す意味深な言葉。ふええ。職権乱用って、どういうこと!?
「この研究所を改革するときに、な。おっさんが口挟んだらしい。ああ見えてあのおっさん、あちこちにヒミツのパイプ持ってるンや」
機関の上層部に……ってことよね。
その上層にどこまで手がビヨ~ンって伸びるのかは、恐ろしくてアダムとディーさえも探れないとか。
「そのときオーウェンさんが内装に鏡を多用しようって提案したの?」
「そうや」
「某機関の一部署の課長に過ぎんかったおっさんの意見が、上層部にすんなり通った」
ここからは顔を寄せて、ひそひそ話よ。周りの目なんか、気にしない。
「ここの研究所に関しては、おっさんの意思が大きく働らいとる。最初から他の研究所施設とは、別の目的があったからな」
別の目的って?
「そのために、わざわざクチバシ挟んだンやろなぁ」
(――――あ!)
「能力者不法犯罪特別捜査班《TICOIS》の設立!」
3人の声が合った。
え。結局、特大鏡はお仕事とは全く関係ないの――!?
「そういや、テスは訊いたことあるか? 西研究棟第6棟の第6会議室前の鏡、な。あそこの鏡の前に立つと、反対側の壁に掛かっとる絵の額が映り込むンよ。普段は、ちゃんと絵が見えるンやけど、な」
「確か、のどか~な風景画やったか?」
そうそう、と相槌を打つあたし。緑深い森の絵、よ。
「夕暮れ時、ちょうど夕日が差し込む時間にあの鏡の前に立つと……」
「鏡に映ったその風景画の辺りに、な。異様な人影が見えるンやて」
――――え!?
「奇妙な動きをする、大きな不気味な影が……」
「こう、ゆら~ゆら~……と」
ここでふたりは顔を見合って、
「噂やけど、な」
そう言って、意味ありげな笑顔で笑う。
あたしが怖い話が苦手だって知っていて、そういう話を持ち出してくるんだから。人が悪い。
と、ここで両脇からあたしの前に置かれてお皿に手が延びて来た。あっと言う間にピスタチオとチョコレートのマカロンが消える。
「ああん! あたしのおやつ!」
口に放り込んだマカロンを味わいながら、彼らは言う。
「そやから、夕暮れ時に行かなええやん」
「そうや。知らんで、うっかりで出会さんように注意勧告したっただけやから」
「テスは不可解現象が大ッ嫌いやもんな~~~~」
え~ん!
怖い話は大嫌い! 知っているくせに、そういう話を振らないでよ~~。
♡ ♡ ♡ ♡
横取りされずに済んだフランボワーズのマカロンを胃に収め、ランチルームを出たのは西日がまぶしくなる頃だった。
プポー博士にお手伝いを頼まれていたんだっけ。
データの処理って、面倒臭いのよね。でも大切なデータなので、おろそかに出来ない。
それがどうにか片付いたとき、今度はカビーゼル管理官から応援要請を受けた。
それが、迷子捜し。最近レチェル4にやって来た能力者が、行方不明になっちゃたんだって。
能力者っていっても、7歳の男の子だもん。好奇心旺盛で、直ぐにどこかへ行っちゃうの。
カビーゼル管理官によれば、西研究棟第6棟の裏手で小動物を追いかけて遊んでいるのではないかって言うのだけれど、あの辺りって陽が暮れたら真っ暗よ。
小っちゃいながらも能力者だから、生活寮まで帰って来れないってことは無いでしょうけど、でも心配よね。
男の子って、夢中になると、時間が経つことを忘れちゃうんですもの。
(仕方ないなぁ、迎えに行ってあげようか)
ン……。第6棟って?
アダムとディーがなにか言っていたけど、なんだっけ?
その時は迷子のことで頭がいっぱいで、彼らの忠告を思い出せなかったの。
【肉の日マッスルフェスティバル企画用テンプレート】
1.あなたのユーザーネームを教えてください。
加純
2.ゴリマッチョ派ですか? 細マッチョ派ですか? それ以外ですか?
細マッチョ派と云うより、骨格派。
3.あなたの作品の中で一番のゴリマッチョを教えてください。
キャラ名:ジェレミー・オーウェン&エミール・ヨーネル
出演作品:テスとクリスタ
語りたい事があれば:テス曰く「キモカワなタコのキャラクターみたいなお顔」&「昔観たヴァイキング映画で主人公の後ろ辺りで威勢を上げていた俳優さんに似ている」な、実は階級以上に偉い(かもしれない)人物たち。
4.あなたの作品の中で一番の細マッチョを教えてください。
キャラ名:クリスタ・ロードウェイ
出演作品:テスとクリスタ
語りたい事があれば:職業、モデル。スタイル維持のためにトレーニングは欠かしません。
5.あなたの作品の中で、一番好みの筋肉をしているキャラとその体つきを教えてください。
キャラ名:(……?)
出演作品:(……?……)
体つき:(…………う~ん……)
語りたい事があれば:わかりません。
6.漫画、アニメ、ゲームキャラの中で好きな筋肉の部位を1〜5箇所あげてください。(例:DBのベジータの大臀筋が好き等)
①頭蓋骨(←違うよ!)
②肋骨(←だから!)
③脊柱のS字ライン(←えー……っと!)
④腸骨稜から上前腸骨棘にかけての曲線(←本当に……)
⑤上腕骨、橈骨、尺骨を経て手の細かい骨に至るシルエット(←申し訳ございませんっ!)
7.一番好きな筋肉の部位はどこですか?(何筋フェチ?)
これから探します。
8.あなたにとって筋肉とは何ですか?
骨の上に乗っているもの。(←土下座!!)
9.筋肉キャラの絵を載せてください。絵を描かない方は10にお進みください。
オーウェン&ヨーネル
10.あなたの作品のキャラを使って、200字以上の筋肉SSを書いてください。
後編にもイラストあります。お楽しみに。