第二十七章 金になる木 1.木挽きと心材
アドンは頭を悩ませていた――ユーリが持ち込んだ心材を、どこに売れば角が立たないか。
木彫り職人も魔道具職人も魔術師も、誰もが涎を垂らしそうなローゼッドの心材、しかも長いままである。どこに持ち込んでも歓迎され、持ち込まなかったところから非難される……そういう未来が幻視できるだけに、アドンとしても持ち込み先を決めかねていたのである。
……だから、その時のユーリの言葉は福音にも思えた。
「アドンさん、製材……木挽き職の方をご存じじゃありませんか?」
――よし、提供者の意向を聞いた。持ち込む先はこれで決まった。
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「今向かっているのが、例の木挽き職の方の?」
「あぁ。職人というか、木工所だけどね。ユーリ君のご希望どおり、丸太を板に挽く事もやっているよ」
ユーリの問いに答えたアドンが、今度はユーリに念を押す。
「それよりユーリ君、今から行く木工所にあの心材を売る予定なんだが……持ち込んだのは君だという事を――無論内密にと言質を取った上でだが――明かしても構わないんだね? 何しろ相手は木工職人だ。あれやこれやと訊ねてくるのは目に見えているが、私では答えられないのでね」
これは昨夜のうちにアドンと――オーデル老人も交えて――相談した事なので、ユーリも頷いて承諾の意を示す。
「構いません。と言うか、僕も家の近くの森で拾って来ただけなんですけど」
「……まぁ、それでも向こうは色々と訊きたがるだろう。できる限り答えてやって、対価に色々と吹っ掛けるのが良いよ」
そんな腹黒い相談をしていると、馬車は目的地に到着した。
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「どうだね……?」
既に五回目となる質問を放った時、相手はようやく硬直が解けたように顔を上げると、擦れた声でその問いを放つ。
「……幾らだ?」
「……幾らの値を付ける?」
底意地の悪いアドンの問い返しに、男は唸り声を上げて黙り込むと……やや間を置いて答えを返した。
「……金貨八十……いや、百まで出す。……それ以上なら分割にしてくれ。今出せるのは百枚が限度だ」
金貨百枚。ユーリの感覚では日本円でざっと一千万円。
生前の日本で銘木の床柱が数十万から、場合によっては百万以上の価格で市販されていた事は知っている。
また、ユーリが持ち込んだ「心材」が、直径で大体二十五センチ、長さにして十メートル以上ある事も知っている。
心材一本から床柱が三本採れるとしても、最大で三百万……金貨三十枚くらいではないのか? 金貨百枚というのは買い被り過ぎなのでは……?
……と驚いていたユーリには構わず、アドンは……
「金貨百五十枚、ただし五十枚は後払いでいい。その代わり、次の入荷時にもお前のところに優先的に廻そう」
傲然とも見える態度で言い切ったアドンに、工房主らしき男は目を剥いた。
「……次だと?」
「見れば判るだろう。その材は上下を切ってある。上と下があるのは自明だろう」
「上と下……」
「まぁ、次の入荷は来年になるが……問題はあるまい?」
「……無い。……と言うか、そう立て続けに持ち込まれても困る」
魂の抜けかかったような様子で答える工房主に、アドンは一つ頷きを返し、
「――で、どうする?」
「……解った。その条件でいい。……だが、どこで入手したのかなど、もう少し詳しい事を教えてくれ。こっちも顧客相手に説明せにゃならん」
「産地は塩辛山の山麓だ。詳しい事は当人に訊いてくれ」
「当人……?」
「あぁ、この少年だ」
斯くして、価格に呆然としている少年と、出品者が年端もゆかない少年だという事に呆然としている工房主が、改めて対面する事になった。




