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第二十六章 北市場 1.市場へ

 サヤとセナの姉妹を拾った事で頓挫……と言うほどでもないが、とにかく中断していたユーリの買い物を仕切り直そうという事になった。雑貨や衣料品に関しては既に購入を済ませており、残りは食料品、特に野菜や果物の類だと聞いたアドンが、案内人を付けてくれた。

 ……(もっと)も、オーデル老人とユーリは密かにお目付役だろうと睨んでいる。(かえり)みれば破落戸(ごろつき)を半殺しにしたり難民の少女を拾ってきたりと、出かける度に何やら引き起こしているのだ。アドンが警戒するのも(けだ)し当然であろう。……という事が解っているから、ユーリも何も言わずに受け容れる事にしたのであった。



「坊ちゃん方、今日はこいつに北市場の案内させますんで。これでも一応は料理人の見習いなんで、食材についちゃあ何かのお役に立つと思います。構わねぇから()き使ってやって下さい。……ほら、エト、ご挨拶(あいさつ)しな」



 料理長のマンドがそういって連れて来たのは、まだ(とし)()もいかない少年であった。聞けばユーリより一つ下、元・難民で現・小間使い見習いのサヤより一つ上であった。栗色の巻き毛に雀斑(そばかす)を散らした、(はしこ)そうな少年である。



「ユーリ様、オーデル様、ドナお嬢様、今日はよろしくお願いします」



 マンドにどやしつけられても(なん)()の、けろりとした顔で挨拶するあたり、頼もしいと言えなくもない。



「いや……ユーリ様って……そんな大した者じゃないから、普通に喋ってくれない?」



 後ろの方でドナが、お嬢様……と感極まった声で(つぶや)いているが、聞かなかった事にしてユーリが訂正を要求する。が、



「旦那様から、くれぐれも粗相の無いようにと言いつかっています」



 明朗快活丁寧に、しかしきっぱりと、エトという少年はユーリの希望を一蹴する。エトにとって見ればユーリは「お客様」、対してアドンは「旦那様」である。どちらの意向を尊重するかは判ろうというものだ。

 ユーリは軽く溜息を()くと、頭を切り換えてエトに向かう。



「解った。じゃ、今日は案内をお願いするね、エト」

「はい。お任せ下さい」



・・・・・・・・



 アドンとマンドが太鼓判を押したとおり、エトは案内人として優秀であった。青物市場の隅から隅まで()(しつ)しており、店の人間とも親しいようで、至る所で声を掛けられていた。

 ……なぜか行く先々で、ユーリを見るなりビクッとしてそそくさと逃げ出す者がいたが……気にしてはいけない。


 エトの口利きで様々な食料品を――しかも安く――入手する事ができてユーリはご機嫌ご満悦であった。――が、自分の「村」で栽培してみようという食指が動くものが、意外に少なかったのも事実である。



(まぁ……米とトウモロコシ以外の主要穀物は大体揃ってるし、野菜類もそれなりに充実してるからなぁ……)



 果実類で良いものがないかと期待していたのだが、大半はエンド村でも栽培しているか、あるいは似たようなものが山中に自生しているものばかりで、目新しいものはほとんどなかった。

 元・日本人のユーリは失念していたが、物珍しい果実すなわち遠国の果実となると、所要日数の問題から生鮮状態での輸送は――マジックバッグのような魔道具を使わない限り――ほぼ不可能である。(ひっ)(きょう)、乾燥果実として運ばれて来る事になる。種子が残っているものは播種して発芽させる事までは可能かもしれないが、原産地の話を聞くに、この国で栽培するのは気候的に厳しいといったものが多かったのである。



(と言うか、この国って割と高緯度にあるみたいだからなぁ……ヨーロッパと同じような緯度なら、日本で言えば東北とか北海道だもんな。南国の果物とかは難しいか)



 かつての日本のように、バナナ・パイナップル・パパイヤ・マンゴー・ドリアン・マンゴスチン・スターフルーツ……などといった綺羅(きら)(ぼし)の如きトロピカルフルーツは、もはや見果てぬ夢として諦めた方が良いだろう……などと殊勝な考えを抱くユーリではない。気温が低いなら温室を作ればいいじゃないか、などという野望を抱いていた。ただ、現状ではガラスの入手の目処(めど)が立たないため、凍結状態になっているが。


 熱帯作物は当面お預けにして、何か他に好さげなものは……とぶらついていたユーリの目に――正確には【鑑定】に――それが引っかかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公なら木枠でロンデル窓とか作ってしまいそうだ…
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