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第二十五章 二人の姉妹  2.パパス芋

 幼い姉妹が客用の一室に落ち着き、妹の方はぐっすりと眠っている事、栄養失調気味だが、当面命に関わるほどではない事を、メイドがアドンに伝えて引き下がった。



「……それで? ユーリ君」



 難民らしい幼い姉妹を連れ込んで来て、耳寄りな儲け話があるからこの子たちを休ませてくれと、自信ありげに交渉したユーリ。その様子から、この子はまだ何か握っているなと察したアドンは、何も聞かずに二人を部屋に案内し、掛かり付けの医者を呼んで診察してもらった。メイドはその結果を伝えてきたのである。

 もの問いたげなアドンの視線を受けて、ユーリは先程姉妹から買い取った――ゴタゴタしていたので代金はまだ未払いだが、ユーリの脳内では断固として買い取る事が決定している――芋を取り出してみせる。



「……毒芋じゃないかね。これがどうしたと?」



 (いぶか)しげに視線を返すアドンを見て、ジャガイモ――こちら風に言えばパパス芋――の毒の正体が知られていない事を確信する。



「……ひょっとして、ユーリ君はこれの毒抜き法を知っておるのかね?」

「何!? 毒抜き?」



 あるいは――という様子でオーデル老人が訊ね、聞き捨てならぬという様子でアドンが反応する。



「少し違います。このパパス芋は元々毒なんかありません。取り扱いを間違えると毒が生じるだけです」



 それは毒なのとどう違うのか――という疑問を呑み込んで、アドンは先を続けるように促す。それに応えてユーリは、自分が知っている事を、そして、ここに戻る途中に姉娘から聞いた事を話していく。



「……光に当てて青くなった部分に、毒ができるのかね……?」

「はい。それと芽の部分ですね。ご覧のとおりこれは芽吹いてもいませんし、色も緑に変色してはいません。食べても問題ありませんよ」



 美味しいですよ、とユーリは言うが、だからと言って……と渋るアドンを見てユーリは、



「なら、実際に食べてみましょうよ」



 台所に移動したユーリが、怖々と見守る一同の前で作って見せたのはフライドポテト。手軽に作れて誰の口にも合う、前世地球の定番料理である。五年ぶりの味に嬉々として食べ進むユーリを見て、他の面々も恐る恐る手を伸ばす。



「そこまで怯えなくても……執事さんに【鑑定】してもらって、毒が無いのは確認したじゃないですか」



 抜け目の無いユーリは、【鑑定】持ちだという執事に頼んで、調理の前後に毒性の無い事を確認してもらっていた。その保証あればこそ、アドンや料理長など他の面々も食べてみようという気になったわけだが……



「ほぉ……これは、また……」

「美味しい……」

「塩味だけですが……これは乙なものでございますな」

「旦那! こりゃあ是非とも買い取るべきです!」

「ふむ……ユーリ君、これは他の食べ方もできるのかね?」

「勿論! 煮てよし、()かしてよし、揚げてよし、(いた)めてよし……生以外の大抵の調理法に合いますよ」

「「「「「ほほぉ」」」」」

「あ、でも、現状ではこれだけしか無いんで、お譲りする事はできませんけど」

「「「「「え~!?」」」」」



 先程と打って変わって、芋が手に入らない事に不満そうな一同を――こちらは満足げに――眺め、(おもむろ)に話を切り出すユーリ。



「で、ここからが商談になるんですよ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 種芋確保しつつ芋の栽培方法を売るのかな?
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