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第二十四章 災厄の道 4.対策

「……ユーリ、そこまで知ってんなら、その化け物の(たお)し方にも心当たりがあるんじゃねぇか?」



 ギルドマスターのナバルが問い詰めるが、確かに心当たりがある。……と言うか、以前に狩った事がある。しかし……今ここでそれをばらすのも……



「……まぁ、一般的な事でしたら」

「あぁ、それで構わん。――と言うか、普通でない方法を教えられても困る」



 普通でない(・・・・・)やり方でティランボットを狩ったユーリとしては複雑な心境であるが、ともあれ【対魔獣戦術】に記載されている方法を開陳(かいちん)する。



「……【隠身】スキルを持っているので厄介ですが、本質的に好戦的な魔獣なので、隠れてやり過ごすという事はしません。どこかで姿を現して攻撃してくる筈です。なので発見してから後の事になりますが……」



 ユーリが説明する方法を聞いて、ギルドにいた面々は頭を抱えた。


・腕の届く範囲に近寄らない。

・機動力を殺し、逃げられないよう包囲する。ダッシュ力と跳躍力に優れるので、厚みの無い包囲陣は簡単に突破される。

・遠巻きに取り囲んで、荷車や水樽などを障害物として設置し、自由に動ける範囲をじわじわと狭めていく。

・鎖や網のようなもので絡め取るのもいいが、丈夫なものでないと引き千切られる。

・魔法だと弾かれる事があるので、遠間から投げ槍や弓で攻撃する。

・毒も選択肢の一つであるが、代謝が盛んなので毒の回りも早い反面で、毒に耐性を持つ個体が多い。ちなみに、必要な毒の種類と量を聞いて、入手の困難さに一同がへたり込んでいた。



「どうやっても大勢の冒険者……それもD級か、できればC級以上の者が必要だって事か……」

「包囲を考えたら、少なくとも二十……いや三十……できれば五十人以上は必要ですよ?」

「そんな人数はすぐには集められんし、時間もかかる……ユーリ!」

「はい?」

「もっと少人数でやれる方法は知らんか?」

「……と、言われても……これはティランボットに限りませんけど、こちらから奇襲をかければ……あるいは……」



 ユーリの台詞(せりふ)も歯切れが悪い。自分なら単独で討伐できるのだが、それをこの場で言い出した日には、面倒事に巻き込まれる予感がひしひしとする。



「……奇襲か」



・・・・・・・・



 ……翌日、なぜかユーリは「幸運の足音」の面々と共に、ティランボットが出たという場所へ向かう馬車の中にいた。


 ユーリの説明を聞いたナバルは、しばらく考えた後に幾つかの手を打った。


 第一に、ギルドとして近在の冒険者を招集し、場合によっては領軍の兵士の協力も念頭に置いて、ティランボット討伐部隊の編成に着手した。

 第二に、現時点でローレンセンに滞在している唯一のC級パーティ「幸運の足音」に指名依頼を出し、ティランボットの捜索と牽制を依頼した。これは更なる被害が出るのを防ぐのと同時に、討伐部隊の編成と派遣までティランボットを足止めするか、もしくは嫌がらせ的な攻撃で追い払うかを期待するものであった。

 そして第三に、ユーリに対して、アドバイザーとして「幸運の足音」に同行してもらえないかと頼み込んできたのである。ユーリの価値を知るアドンは――ティランボットによる被害の大きさもまた理解できるだけに――微妙な表情であったし、オーデル老人とドナの二人は勿論反対した。ただし……



(肉は意外と美味いし、何より(にく)(しょう)の絶好の原料なんだよなぁ……)



 以前に一度だけ狩ったティランボット。その内臓で造った(にく)(しょう)が、それはそれはそれは美味であったのだ。

 現在までのところここ商都でも、味噌・醤油はおろか(ぎょ)(しょう)(にく)(しょう)などの醗酵系の調味料は見つかっていない。ならば、美味い(にく)(しょう)を得る機会は無駄にしたくない……


 ――と、まぁ、そういう下心があって、ユーリはこの依頼を受ける事にした。冒険者でないユーリは、冒険者ギルドの依頼に従う必要など無いのであるが、初心者講習の事もあり、冒険者ギルドとは良い関係を築いておいた方が好いような気がしたのである。前世に読んだラノベでも、そういう展開が多かったし。


 そんな経緯(いきさつ)で前線へと向かっているユーリに、「幸運の足音」のリーダー、クドルが話しかける。



「……なぁ、ユーリ。ひょっとしてだが……お前、ティランボットって魔獣を狩った事があるんじゃないのか?」



 ローレンセンへの道中でグリードウルフをあっさりと(たお)すのを目撃し、特大のギャンビットグリズリーの毛皮やら胆嚢(たんのう)やらを見せられたクドルたちは、ユーリがティランボットを狩っているのではないかという疑念を拭えなかった。ティランボットが極めて危険な魔獣なのは解るが、ギャンビットグリズリーを常習的に狩っていそうなユーリならあるいは……という思いを(ふっ)(しょく)できなかったのである。

 そして、(あん)(じょう)……



「狩ったと言っても一度だけですよ? それも、不意を()いてやっとでしたから」

「『赤い砂塵』を奇襲した魔獣に、逆に奇襲を仕掛けるだけでも凄いわよ……」



 どこか諦めたようなうんざりしたような魔術師(カトラ)の声に、居並ぶ一同がうんうんと(うなず)く。



「今回も上手くいくとは限りませんよ? 実際に見てみないと」

「見つけるのは確定しているんだね……」



 斥候役(フライ)の声にもなぜか力が無い。

 微妙な空気が支配する中、それを振り払うようにクドルが問いかける。



「それで、ユーリ。そいつを見つけるのはお前さんに任すとして、俺たちはどうやって戦えばいい? ……一般人でもできる(・・・・・・・・)方法でだが」



 これまたうんうんと(うなず)いている一同を見て、ユーリは困惑を隠せない。

 自分のような底辺でも狩れるんだから、コツさえ掴めば誰にでも狩れるのではないか? 冒険者ギルドでも、皆が過剰に反応しているような思いが(ぬぐ)えなかった……口を出すと面倒そうなので黙っていたのだが……別に、狩ってしまっても構わんのだろう? 不意さえ()かれなければ大丈夫の筈だし。



「いやいや、ユーリの基準を押し付けられても困るから」



 今度も全員が盛大に(うなず)いた。

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