第二十四章 災厄の道 2.凶報(その2)
大丈夫かなぁと思いつつも、ユーリは自作のポーションを【収納】から――マジックバッグを介して――取り出し、並べていく。【調薬】スキルの練習も兼ねて、調子に乗って作っていたため、作ったユーリ本人が驚くほどの数が仕舞い込まれていた。
さすがにその全てを出すのは躊躇われたので、取り出したのはそのごく一部であったのだが……それでも多いと思われたようだ。
目を剥いて眺めていた男性が、徐にそれらを取り上げて……
(あぁ……クドルさんの時にはうっかり見逃したけど……他人が【鑑定】を使っていると、あぁいう風に見えるのか……)
五年間の山暮らしで、ユーリの【鑑定】スキルも相応のレベルに達している。そのせいか、その男性が【鑑定】スキルを使っているのが、手に取るように明瞭に判った。
その男性は驚いたようにポーションを見直していたが、あるだけのポーションを猛スピードで【鑑定】し終えると、ものも言わずにそれらを重傷者に振り掛けた。飲んだ方が効率が良いのは無論であるが、飲むだけの体力も残っていない相手には、振り掛けるだけでも効果がある……
――と、ぼんやりその様子を眺めていたユーリを、職員らしき男性が振り返った。
「おいっ!! ポーションはまだあんのかっ!?」
「あ、はい。自作のものでいいなら……」
「ありったけ出してくれ!!」
えー……と思いつつ、ユーリは更にポーションを取り出していく。尤も、男の言葉どおり全部を出したら薬屋の在庫を上回りそうなので、そこは心持ち控えめに。
重傷者一人当たりに七~八本、軽傷者に同じく二~三本、全部で二十本以上のポーションを椀飯振る舞いしたところで、怪我人たちは命を取り留めたらしい。
「すまんな、坊主。 ……だが、お蔭で何とか助かったみてぇだ」
「いえ……それは別にいいんですけど……あんなにバカスカ使って、大丈夫なんですか? 極量……処方の限界を超えてるんじゃ?」
「あぁ。副作用は酷いだろうが、死んじまうよりはマシだからな。それに……あいつらには酷だが、何があったのか報告してもらわなきゃならん」
あぁ、なるほど、そういう意味合いもあったのか――と、納得していたユーリに向かって……
「確か……ユーリだったか? うちの初心者講習に入り浸ってるって聞いたが?」
「あ、はい。お邪魔してます。……えぇと……」
「おう、こりゃすまん。俺はここでギルマスやってるナバルって者だ。譲ってもらったポーションの代金は、後でギルドの方から支払わせてもらう」
ギルドマスターだったのか――と思いつつユーリは、
「あ、いえ……どうせ自作したものですし……講習会の料金だと思っていただけると……」
「そういうわけにゃいかねぇんだが……随分と効果も高かったようだし、そこらのポーションと同じに扱うわけにもいかんのだが、かと言って、適正価格も判らんしで、正直困ってたところだ。そういう事なら甘えさせてもらって、普通のポーションの倍額でいいか?」
「いえ……ですから……」
「うちもケジメってやつがあるんでな、只ってわけにゃいかんのよ。ま、助けると思って受け取ってくれや」
「……そういう事でしたら」
「しっかし……あぁも効果の高いポーションを作れるくせして、何でまたうちの初心者講習なんざ受けてんだ?」
「あ、いえ……多分ですが、効果が高いのは僕のせいじゃなくて、材料の問題だと思います。山の麓で採った薬草とかを、ほとんど採集直後の状態で使いましたから」
「なぁる……塩辛山の薬草を新鮮なうちに使ったってぇんなら、そういう事もあるか……」
ユーリの説明に納得していたギルドマスターであったが、やがて怪我人――比較的軽傷の三名――の様子が落ち着いて、報告をしたがっている――と、ギルドの職員が呼びに来た。