第二十四章 災厄の道 1.凶報(その1)
その日も冒険者ギルドでの初心者講習(鍛冶篇)を終え、好い気分で部屋を出てきたところで、ユーリはギルドの喧噪に気が付いた。見れば冒険者だけでなく、アドンを始めとする商人たちの姿もある。
商人が依頼に冒険者ギルドを訪れるのは珍しくないが、それでも、今のように大勢が取り乱した様子でというのは普通ではない。
はて……?
「アドンさん、何があったんですか?」
「ん? ……おぉ……ユーリ君か」
ユーリに声をかけられて、アドンは初めて彼の存在に気が付いたようだ。
「はい。……それで、何かあったんですか?」
「いや……昨日のうちに着く筈だった荷馬車が遅れていてね……こっちには何か情報が届いていないかと……」
「はぁ……」
はてね、とユーリは内心で首を傾げる。前世の日本ではあるまいし、この世界、そこまで厳密なスケジュールで動いているのだろうか……?
不審気なユーリの表情を見て取ったのか、もう少し詳しい事情をアドンが説明してくれた。
「……つまり、昨日の午過ぎには着く予定だと、当の馬車から朝のうちに連絡があったんですね?」
「そう。魔導通信機を使ってね。なのに、到着予定時刻を過ぎても、馬車どころか何の連絡も無い」
「盗賊や魔獣に襲われても、一報を入れるくらいの時間はある筈なんだ。それを期して高い魔導通信機を持たせているわけだしな」
「なのに……何の音沙汰も無く、馬車が消えちまった」
大人たちが口々に事情を説明してくれるが……ふぅむ……これは確かに妙な話だ。
内容的にはミステリというより謀略小説に近いような気もするが……こういうケースに定番の設定と言えば……
「御者が荷物を奪ったという事は、お考えじゃないんですね? 御者からの連絡が攪乱を狙った偽装だという可能性は?」
「考えられんね。御者の為人を別にしても、行方を絶ったのは一台じゃないんだ」
「すると……連絡を入れる間も無く、全ての馬車が全滅した……そういう解釈になりますけど?」
「……そう思いたくないから、こうして冒険者ギルドに来ているんだが……」
「何か事情は判らんものかと思ってね」
答えてくれたのは、アドン同様に馬車を失った商人たちだろう。いずれの顔色も一様に悪い。どうしたものかと考えていると、急に表が騒がしくなった。
「退いて! 退いてくれ、通してくれ!」
「早く! 急いで!」
「どうした! 何があった!?」
騒ぎと共に担ぎ込まれてきたのは、五人ほどの冒険者だった。うち、二人は重症。残りの三人も命に別状が無いというばかりで、決して容態が好いわけではない。
小耳に挟んだ限りでは、行方不明となった馬車の捜索に向かった、ここの冒険者のパーティらしい。
「――クソっ! ポーションが足りねぇっ!」
「薬屋はどうした!」
「駄目だ! 買いに行ってる暇は無ぇ!」
「誰か持ってる者はいねぇのか!」
人命が懸かっている様子を見て、ユーリは【収納】内にある自作のポーションの事を思い出した。幸いにしてマジックバッグは身に着けているので、そこから取り出したように見せかけるのは難しくない。ただ……こんな状況で自作のポーションなどが役に立つかどうか……
「あの……自作のやつでよければ、ありますけど……ポーション……」
怖ず怖ずと声を上げたユーリに、周りの冒険者からの視線が突き刺さる。
「何でも構わん! あるってんなら出してくれ! すぐに!!」
「あ、はい……」