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 4.冒険者ギルド

 アドンの屋敷に着いた翌日、ユーリたちは冒険者ギルドを訪れていた。来る途中に狩ったグリードウルフの素材を売却するためである。

 今回のグリードウルフについては、討伐報奨金とギルドポイントを「幸運の足音」へ、素材をユーリへと分ける事で話が着いている。冒険者でないユーリにはギルドポイントを振り分ける事ができないためであるが、ほとんど何もせずに討伐報奨金とギルドポイントを受け取る事になった「幸運の足音」の面々は微妙な顔である。



「でも、いいんですか? 僕は出しゃばっただけですし、皆さんで簡単に(たお)せましたよね?」



 ……なのに、当のユーリがこんな事を真顔で()いてくる。別に嫌味とか当てこすりではなく、本気で言っているから始末が悪い。〝自分の力量は底辺レベル〟という、ユーリの(かっ)()たる信念(ごかい)は健在であった。



「……まぁな……簡単にとはいかんが……」



 足を殺され連携を断たれたグリードウルフなら、確かに各個撃破する事は可能である……五人がかりであればだが。

 微妙に憮然とした(おも)()ちの五人であるが、雇い主であるアドンはと言えば、ユーリの言うとおり五人だけでも撃退は可能だったろうと判断しており、報奨金とポイントを「幸運の足音」が受け取る事に何の疑念も抱いていない。と言うか、こういう振り分けを提案したのがアドンである。貰えるものを貰わないなど、商人としての(きょう)()(もと)るというものだ。


 「幸運の足音」の葛藤はさて()き、今回グリードウルフの素材を売却する事になったのは、アドンとクドルの勧めによるものであった。

 ユーリ本人はいつものように自家消費を考えていたのだが、商都ローレンセンに滞在するなら――宿代と食事代はアドンの屋敷に滞在するので不要だとしても――現金は持っておいた方が良いとアドバイスを受けたのであった。

 転生以来の引き籠もりが祟ってか、そこまで気が回らなかったユーリであったが、言われてみれば(もっと)もな話だと納得し、今回売却のために冒険者ギルドを訪れた――というのがここまでの経緯(いきさつ)である。



「アドンさん、クドルさん、この度は口を利いて下さって、ありがとうございました」



 冒険者登録をしていない――今後もするつもりはない――ユーリは、本来なら冒険者ギルドに素材を売る資格は無い。それをクドルが仲介し、ついでにアドンがごり押しする事で、売却が可能になったのである。まぁ、見過ごすには素材の価値が高過ぎたという事も大きいのだが。



「何、気にすんな。これくらいはしておかないとな」

「そのとおりだよ。ユーリ君には世話をかけたからね」



 特に何かをしたわけではない――降りかかる火の粉を払っただけ――と考えているユーリは、少し不思議そうな顔をしたが、厚意は素直に受け取る事にしたようだ。



「けど……魔獣の素材って、随分高く売れるんですね」



 毛皮だけでも一頭当たり銀貨五十枚以上になるとは聞いていたが、傷がほとんど無い点が評価されたのか、一頭当たり銀貨七十枚で買い取ってもらえた。

 しかも、毛皮以外の買い取り価格がまた高かったのである。



「後脚の筋肉って、(けん)が付いてるとあんなに高い値が付くんですね……」

「あぁ。何しろ強靱な素材だから、弓の弦なんかにも使われるんだが……新鮮なものでなきゃ加工できないらしくてな。大抵は持ち帰るまでに劣化して使えなくなっちまうんで、いつも品薄ってわけだ。今回はユーリがマジックバッグを持っていたから、(いた)む前に持ち帰れたわけだな」

「知りませんでした」

「ユーリ君はどうしていたのかね?」

「あ、(けん)ですか。少し固いけど、よく煮込むと美味しいんですよね」

「……そうか……」

「……美味しいんだ……」

「……売れば金貨一枚になるんだが……食ってんだ……」

「え~と……ですから、僕の住んでいる場所だと、金貨よりも食糧の方が大事なので……」



 それは解る。解るのだが……しかし、どこか複雑な思いを禁じ得ない一同であった。



「……贅沢な食事だよなぁ……」

「……全くだ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 金は食えないんですよ。 金を地面に置いても食料は生えてこないしね。 享保の飢饉のときでしたっけ? 首から金子をぶら下げて道端で餓死してた人がいたとか。
[一言] 金貨一枚の煮込み…
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