3.二人の友 もしくは 友あり、遠方より来たる(その2)
「さて……そうなると、残りの品々が問題となるわけじゃが……」
今回アドンがユーリから巻き上げ……説得して出品させたのは、
「ギャンビットグリズリーの毛皮・骨・胆嚢、樹木の心材、それに……鉛筆とかいう筆記具だな」
「あのナイフは売らんのか?」
「……料理長に取り上げられた……」
「あの火魔法持ちの……そりゃ……返してもらえんのではないか?」
「うむ……望みは薄い。……大層な剣幕であったからな」
魔力を通すと切れ味が――と説明しているところで料理長が実際に魔力を通してみたらしく、その切れ味に狂喜していた。自分の言葉など耳に入っていない様子で試作に入っていたからな。……あれでは返ってくる見込みは無いだろう。
うっかり見せびらかしたばかりに失ったものの大きさに、アドンは憮然としていたが、その様子を見かねたようにオーデル老人が声をかける。
「……儂の分を持っていくか?」
「いや……ありがたいが、これは自分の失策だ。お前に甘えるのは筋が通らん」
「相変わらず堅いのぉ……ま、何かあったら声をかけい」
「すまぬ……」
「で、他のものの売り先は心当たりがあるのか? あれだけのものとなると、下手に競りなどには流せんじゃろう?」
「うむ。一つ一つならまだ何とかなるが、一気にというのは実に拙い。特に、鉛筆とかいう筆記具だな。知られると大騒ぎになるのが目に見えておる」
「……そこまでのものか?」
「当然だ。ペンと違って、少々ざらついた紙にも問題無く、しかも手軽に書けるのだぞ? インクが流れる心配も無く、帳面を手に持った状態でそのまま書き込む事もできる。どれだけ便利で、どれだけ時間の節約になるか。商人にとって時間は掛け替えの無いものだ。それを節約できる便利道具に、金を惜しむ者などおらん」
「ふむ……どうするつもりじゃ?」
「心当たりを絞った上で、口の堅そうな者にそれとなく打診してみる。値段の落とし所が纏まってからの事になるな。粘土の件もあるし……それまでの間、ユーリ君やお前にはここに滞在してもらわんといかんが……」
「ま、それは何とかなるじゃろう。……他のものはどうするつもりじゃ?」
「ギャンビットグリズリーの毛皮くらいはオークションに出しても問題無かろう。そこまで珍しいものではないし、出品元を隠す事は可能だしな。骨と胆嚢は、何も聞かずに引き取ってくれそうな相手に心当たりがある。明日にでも使いを飛ばすとしよう」
「この町にはおらんのか?」
「うむ。ここではなく領都……フランセンの方に居を構えておる。あっちの方が上客が多いのでな」
「ふむ……そうすると、早くて三日……五日ほどは見ておいた方がいいか……」
「それくらいはかかろうな」
ユーリが受けたがっていた冒険者ギルドでの講習会もあるし、五日程度なら問題無いだろうが、それ以上かかるとなると……これはユーリや孫娘と相談せねばなるまい。そんな事を考えていたオーデル老人であったが、再び顔を上げて友に問いかける。
「そうすると、残りはあの心材じゃが……」
「うむ……これもある意味、鉛筆以上の難物でなぁ……」
困ったように眉根を寄せてアドンが答える。
「うん? どこが難物なんじゃ?」
いくら堅かろうが木材に違いはないのだから、材木屋にでも持っていけばいいだろう……
「……とでも、思っておるのだろう?」
「……違うと言うのか?」
「大違いだ。まずな、あの材はただの心材ではない。我々の間ではローゼッドとして知られておる材でな、堅く丈夫なだけでなく、緻密に目が詰んでおって細かな加工にも適する上に、磨くと非常に美しい木目が現れる。……おまけに、魔力の通りが非常に良い」
「それは……また……至れり尽くせりの材じゃな」
「そんな代物が長いまま手に入った。あれだけの長さがあれば、そこそこ大きな彫刻などにも使えようし、長いままなので杖にも使える。……しかも、手に入ったのは一本だけ。……解るな?」
「……どこへ持って行っても、持って行かなんだところから文句が出るわけじゃな? 二つに切れば切ったで、なぜ長いまま持って来なんだのかと難詰される?」
「そういう事だ。それが解っているだけに、素材屋や材木屋も、おいそれと手を出す者は少なかろうよ」
「……話を持って行った時点で噂が広がり、お主が締め上げられるわけじゃな?」
「そういう事だ」
「なるほど……これは確かに難物じゃのう……」