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 2.二人の友 もしくは 友あり、遠方より来たる(その1)

「良い人材を紹介してくれた、オーデル。礼を言うぞ」



 その夜、アドンとオーデル老人の二人は、アドンの私室で杯を交わし、旧交を温めていた。



「少々人材の程が過ぎておるようじゃがな」

「うむ……それはしみじみと実感した……まさか、一日おきの入浴とはな……」

「それが当たり前のように思っておるようじゃ。一体どういう育ち方をしたのやら……」

「お前の話では、祖父殿と二人で旅暮らしであったというが?」

「そう聞いた。旅暮らしの間、そうしょっちゅう風呂に入れたとは思えぬから、入浴の習慣はあの『村』に住み着いてからという事になるが……」

「やはり不自然……お前もそう考えるか?」

「何か隠しておる事がある、それは確かじゃ。じゃが……一体何を隠しておるのか。……どうも、真面目に隠そうという気が無いように思えてのう……」



 世故(せこ)()けた老人二人の目には、ユーリの(つたな)い嘘などお見通し……というわけでもないようで、妙にちぐはぐなユーリの言動に困惑しているようであった。



「……だな。隠すつもりがあるのなら、そもそも入浴の事など口にせぬ筈だ」

「それ以前に、グリードウルフをあっさりと(たお)して見せたりはせんじゃろうよ」



 実は、「己の実力は最底辺」と、しつこく信じ込んでいるユーリは、グリードウルフがそこまで厄介な魔獣だと思わなかっただけなのだが。――何しろ「最底辺」の自分でもあしらえる程度なのだ。



「グリードウルフをあしらった土魔法と水魔法もそうだが……あれは【察知】なんだろうかな? 随分と手前でグリードウルフや山犬(ワイルドドッグ)を見つけていたようだが」

「土魔法の事は知っておったが……確かにのぅ。盗賊の時も、外の動きを捉えておったようじゃ」

「……実はな、屋敷の護衛がユーリ君を警戒して【鑑定】しようとしたらしい」



 マナー的にあまり褒められた事でない話を聞かされて、オーデル老人は片眉を上げる。



「そんな顔をするな。言っておくが、私が命じたわけではないぞ? まぁ、それでだ、護衛が言うには、【鑑定】しようとする度に気付かれて、結局できなかったと言っていた」

「ほほぉ……」

「来る途中での盗賊の解体(・・)発言を教えてやったら、二度とやらんと言っていたな」

「当然じゃろうな」



 ユーリの方は、【ステータスボード】の偽装効果を試す好機くらいに思って、(むし)ろ待ち構えていたのだが。



「……そういうところも含めて、実力を隠そうとせんのが不思議じゃよなぁ……」

「……まぁ、余計な詮索は不要だろう。ここへ来るまでに彼の為人(ひととなり)については一応見せてもらった」

「ふむ……で、どう思う?」

「基本的にお人好し。だが、人付き合いを面倒臭がっている気配、そして、どことなく警戒している気配があるな」

「お主もそう見たか」

「うむ……あの歳で、何があればそんな性格に育つのかは判らんが……」

「解らんと言えば、ユーリ君の知識じゃ。(わし)ですら知らん事を山のように知っておる。一体誰から……と、言いたいところじゃが……」

「祖父殿……という話であったな?」

「うむ。あの歳の子供が一人で塩辛山に住み着くなどあり得んから、祖父殿と一緒じゃったのは確かじゃろう。なら、祖父殿から教わったという事も、嘘ではあるまい」



 ――実は、既にそこからが大嘘である。



「と、なると……祖父殿は恐ろしいほどに多くの事に(つう)(ぎょう)した()(じん)であったという事になるが?」

「国を追われた賢者……そういう事は考えられんか?」



 思いがけない指摘を受けて息を呑むアドンであったが……



「……あり得ぬ話ではないか。何より、彼が書いていた文字自体、まるで見た事のないものであったしな……」



 ――日本語である。



「うむ。何やらえらく複雑な文字じゃった。種類も半端無く多いように思えたの」



 ――漢字と平仮名である。



「……まぁ、いいだろう。余計な詮索をして取引相手の機嫌を損ねたのでは、商人として失格だ。少なくとも、彼は誠実な取引相手のようだしな」

「ふむ……で、お主、ユーリ君の持ち込んだものを、どう(さば)くつもりじゃ?」

「問題はそこだ。扱い方を間違えると大騒ぎになりかねんものが揃っておる」



 くぃと酒杯を(あお)り、空になった杯に新たな一杯を()いで、アドンは話を続ける。――少しだけ眉を(ひそ)めて。



「農作物はまだいい。上質なのは確かだが、そこまで珍しいものではない」

「珍しくはなかろうが、品は良いぞ。どこに(さば)くつもりじゃ?」

「それなんだが……他所(よそ)には流さず、(うち)で使ってみようと思う。客に流す前に、まず自分で品質を確かめておきたい」

「質の良い事なら、(わし)が保証するぞ?」

「悪くない事を疑ってはおらんよ。問題なのは、良過ぎ(・・・)はせんかという事だ。考えても見ろ。あの塩辛山で作られた、あのユーリ君の作物だぞ? 普段彼が、あのユーリ君が食しているものと、同じものなのだろう?」

「む……」



 そこまで言われれば、オーデル老人にも旧友の懸念は察しがつく。



「要するに……アレを食べて元気になり過ぎたりはせんか、そういう事じゃな?」

「可能性は薄いと思うが……確かめておいた方が良いだろう?」



 騒ぎが大きくなると、こちらの領主まで首を突っ込んできかねん、それはそっちとしても(まず)かろう……とまで言われると、オーデル老人としても同意するしか無い。



「……そうじゃな……その方が良い」

ここしばらく投稿時刻が19時になってましたので、次回から20時に戻します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漢字、ひらがな、カタカナもあるから、本当に謎の暗号に見えるかもね(笑)
[気になる点] >「うむ。何やらえらく複雑な文字じゃった。種類も半端無く多いように思えたの」 >――漢字と平仮名である。 カタカナは? 種類も半端無く多い、というなら 英数字やアルファベットや記号…
[一言] そんなことないよ! 象形文字の表音文字くらい世界中にたぶんあるよ!(詳しくない) あと、音を表す文字と意味を表す文字を両方使う人種はきっとたくさんいるよ!(てきとー)  とりあえず冷…
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