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第二章 来た、見た、食った 2.山の幸(その1)

 翌日、(いっ)(しゅつ)作物だけでは必要カロリーを(まかな)えそうにないと結論した僕は、不足分のカロリー源を求めて村の外に出る事にした。


 村の敷地――壊れてはいるが木柵で囲まれた範囲――のすぐ外は、森林を伐り開いたのか原野になっている。阿蘇山の牧野に近い感じだけど、やっぱり草食性の動物が草を()んでいるからだろうか、草丈はあまり高くなく見通しが良い。魔獣の奇襲を受ける危険性は低いようだ。いや、一応【察知】は貰ったけど、どこまでの効果があるのか確かめてはいないからね。不安要素は無い方が好い。

 何しろ僕のステータスは、ここで生きていく上での最低ライン。君子じゃなくても危うきには、近寄らないのが一番です。


 僕がこちらに転生――で、良いのかな?――したのが日本時間の四月十六日。今がこの世界の何月何日なのかは判らないけど、見た感じ春なのは間違い無いようだ。新緑が目に鮮やか……っていう事は、山菜の旬っていう事でもある。カロリー源としては少し物足りないけど、この際贅沢は言ってられない。そう思って、片っ端から【鑑定】をかけつつ周りを見回していると……


《リコラ:日当たりの好い草原に生える多年草。夏に花茎を伸ばして開花、葉はその後に展開する。鱗茎は澱粉質を含むが有毒成分も含むため、野生動物もこれを食する事は無く、そのため蔓延(はびこ)り易い。異世界のニホンではヒガンバナと呼ばれていたものに相当する。ニホンのヒガンバナは、鱗茎を水で(さら)して毒を抜き、澱粉を得る救荒作物として利用されていたが、リコラも同じように利用する事ができる。なお、異世界のチュウゴクでは、ヒガンバナの澱粉は、かつては防虫剤や製紙の際の糊料としても利用されていた》


 枯れた葉が地上に残っているのが、半ば偶然に【鑑定】に引っ掛かったみたいだ。お蔭で澱粉源の目処(めど)が一つ付いた。毒抜きの手間がかかるのは少し面倒だけど……今は贅沢を言っていられる状況じゃない。見れば結構な数が生えているみたいなので、土魔法で土を掘り返して収穫し、そのまま【収納】に突っ込んでおく。時期的にまだ花芽は出ていないから、澱粉も採れるだろう。

 ()(こそ)ぎにしない程度に彼岸花……リコラを収穫して、他に無いかと見回していたら……少し林の中に入った辺りに、ありました。


《ヨッパ:林内に生育する多年草。三角形の葉が茎の下部に集まって着く。春先、展葉し始めた頃に鱗茎を採取して食用にする。夏に緑白色の花を横向きに着けるが、この頃には鱗茎は消失している》


 日本でいうウバユリかな。生前、入院する前の子供の頃に花を見た事がある。根っこが食べられるんだと教えてもらった。生前は食べる機会が無かったけど……まさか、死んだ後に異世界で食べようとは思わなかったな。


 こちらも根絶やしにしない程度に採集し、ついでにその他食べられそうな山菜を片端から採っていく。多くは新芽や新葉で、カロリー源としては(いささ)か物足りないが、栄養補給と腹の足しにはなる。

 他にも、今は採集の時期ではないが秋頃に採集できそうなもの――ドングリだとか山芋っぽいものとか――も見つかったので、目印に木の枝を挿しておく。


 そうやって食糧の採集に夢中になっていると、いつの間にか林の中に入っていたらしい。遠くの茂みがガサリと動いて、同時に【察知】が反応した。



(うわぁ……)


 茂みを揺らして現れたのは、それはでっかいイノシシだった。じっとこっちを見ているんだけど……その視線は何か剣呑な感じを抱かせる。一応【鑑定】してみたところ……


《マッダーボア:イノシシ型の魔獣。一応雑食だが肉食の傾向が強く、小動物を襲って食べるのは日常的。狩りの際には猛烈な勢いで突進し、鋭い牙で獲物を切り裂く》


 うん。()る気……というか、僕を襲って食べる気が満々だ。


「や、やぁ……ご機嫌いかが……?」


 それでも僕としては、【言語(究)】に期待して、一応友好的に接しようとしたんだけど……


「やっぱり~!!」


 ものも言わずに(しゃ)二無二(にむに)突っ込んで来たよ。


 恐怖のあまり(すく)みそうになる身体を必死で動かして、何とか突進を(かわ)す事に成功する。軽トラがすぐ傍を走り抜けて行ったような感じだった。

 身を守ろうにも、只管(ひたすら)スローライフを優先にしたため、戦闘向けのスキルは持ってない。手に持っているのも、一見それっぽく見えはするが、武器ではなくて採集用の根掘りだし。


 そうこうしているうちに、一旦向こうに駆け抜けて行ったイノシシがUターンしてこっちへ向かって来た。


「わ、わわっ……あ、そうだ! 【隠身】!」


 トラブルを避けるために貰ったスキルの事を間一髪思い出し、祈るような気持ちでスキルを発動すると……イノシシのやつは僕を見失ったらしく、戸惑ったように足を停めて辺りを見回している。その様子を見ているうちに、僕の心の中にある疑いが芽生えてきた。


 ――こいつ、大した事、ないんじゃね?

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