第二十二章 ローレンセンへ~南南西に進路を取れ~ 2.野営時の語らい(その1)
このフォア世界では盗賊を討伐したからといって、それがギルドカードに記録されるような都合の好い展開にはならない。討伐者がギルドに申告するのが慣例――義務ではない――であった。申告のみの場合は事実確認ができないため、討伐した相手が賞金首であっても、そのままでは懸賞金も報奨金も貰えない。殺さず生け捕りにして連行するか屍体を持ち帰れば問題は無いが、それが面倒だという場合には盗賊のギルドカードを持ち帰るのが普通であった。摩訶不思議なギルドカードから本人の犯罪歴――正確には犯罪者となったかどうか――を判定する事ができるため、犯罪者となった時点で処分する者も多い。ただし唯一の身分証明でもあるため、カードに擬装を施して持ち歩く者も多かった。ギルドカードはまた所有者の生死を表示する仕様のため、カードを持ち帰れば犯罪者となった所有者が討伐されたという証明になったのである。
――というような事を、ユーリはクドルから延々と説明されていた。……生首を持って行く必要は無いのだと。
「……まぁ、ギルドカードを持っていない場合、代わりに右の掌を切り取って持って行く事も昔はあったみたいだが……今はほとんど無いな」
説明を受けたユーリは納得する。ユーリにしたところで、何も好んで生首なんて血腥い代物を運びたくはない。穏便な品物で代用できるなら、それに越した事は無いのである。
「そうすると……この後はどうするんですか? アジトとかを探して根絶やしに?」
……発言の方は少しも穏便ではなかったが。
「いや、俺たちが受けた依頼は護衛であって討伐じゃない。襲って来た盗賊を返り討ちにするのは依頼の範疇だが、態々討って出るのは依頼内容から外れる。まぁ、この辺りは依頼主の意向だな」
ちらりと依頼主の方へ視線を巡らせると、黙って首を横に振っていた。盗賊の殲滅は分不相応として、先を急ぐ事にするようだ。
「……まぁ、アジトとか残党とかについちゃ、あまり気にする必要は無いと思ってる」
言葉少なに言い切ったクドルであったが、ユーリたちのもの問いたげな視線を受けて、事情を簡単に説明してくれた。
それによると……
「……先頃討伐された盗賊団の生き残り……ですか」
「多分、だがな。最近こちらへ逃れてきたばかりとするなら、アジトなんて気の利いたものは持っちゃいないだろう」
「木の根を枕にここまで落ち延びて来て、活動を再開しようとした矢先だったと?」
「ギルドの方にも被害報告は出てなかったからな。まず間違いないだろう」
新規巻き直しの初仕事で、選りにも選ってユーリというジョーカーを引き当ててしまったらしい。ご愁傷様である。
微妙な雰囲気になりかけたところで、クドルが話題を転換する。
「それより、さっきから気になってたんだが……ユーリの……それは?」
そう言いつつ、盗賊を手際良く仕留めた凶器に視線を向ける。
……十二歳の子供のメンタリティだとか、凶行の記憶だとかいう話は忘れる事にした。手にかけた賊の屍体を前に解体だの素材だのと言い出す輩に、何をどう気遣えと言うのだ。
そんな事よりユーリのナイフだ。見慣れぬ形もそうだが、易々と賊の心臓を貫いたところを見ると、中々の業物のように思える……ユーリの手際もあるのだろうが。
「あ、これですか。普段は解体用に使っているんですけど、土魔法で造った庖丁みたいなものですね」
「解体……って……魔獣の、だよな?」
「そうですね」
色々と衝撃的な事が続いて忘れていたが、魔獣の皮や肉は、そう簡単に切り裂けるものではなかった筈。その答えが、ユーリが手にしているナイフというわけか。ユーリは庖丁と言ったが、細身の両刃のどこが庖丁なんだ……?
「あ、この形は解体用だからですよ? 調理用じゃなくて。魔獣の皮や肉を綺麗にばらすためには、こういう細身の方が細かな隙間にも差し込めて、動かし易いんですよ。関節を外す時なんかは特に。両刃なのも同じ理由です」
――と、ユーリは説明しているが……確かに形態だけ見ると、一般的な庖丁とはかけ離れている。両刃の柳刃包丁に見えなくもないが、どちらかと言うと「フェアバーン・サイクス戦闘ナイフ」に近い。――胸郭を貫き易くするために細身のデザインとなっている、特殊部隊御用達の戦闘ナイフに。
無論クドルたちはそんな事は知らないが、それでも料理の下拵えより戦闘に、もっとはっきり言えば殺人に向いているような気がする。
ただ、それらの武器・暗器と決定的に違っているのは……
「……鉄じゃあねぇよな。ひょっとして土魔法で作ったのか?」
「えぇ。刃物を入手する手段が無かったので」
「だからって……土魔法で作ったナイフで魔獣を解体するなんざ、普通はやらんと思うが……見せてもらってもいいか? 【鑑定】しても?」
「どうぞ、構いません」
以前に自分でも鑑定したが、別におかしなところは無かった筈だ。そう思ったユーリは、何の気負いも警戒も無く答えた、の・だ・が……




