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第二十一章 楽しいハン行 1.出発

 翌日の早朝、ユーリたちは最寄りの町――ハンという名の宿場町――へ向けて出発の用意をしていた。早朝に発てば、日暮れ前に目的の町へ着く事ができるのだという。



「こんなに魔素が強いところで野宿なんか御免だからな」



 というのが、護衛に付いている冒険者パーティ「幸運の足音」のリーダー、クドルの説明であった。ここより〝魔素が強いところ〟に住んでいるユーリとしては、曖昧(あいまい)な笑いで誤魔化すしかない。まぁ、野宿は御免というのには同意できるが。



「今年は魔獣どもの動きが活溌みたいだが……ま、大丈夫だろう」



 勇ましからぬ名前に似ず、「幸運の足音」はこれでもCクラスの冒険者パーティであり、護衛だけでなく対魔獣戦闘の経験もそれなりに積んでいる。その判断に異を唱えるつもりなど毛頭無いが、ユーリには気にかかる一語があった。



「魔獣の動き、活溌なんですか?」



 山のほとりに住んでいるためか、ユーリにはその辺りの感覚が解らない。何しろ魔獣たちはユーリを見るなり襲いかかって来るのだ。そうでないのは明らかにユーリより力量の劣るものばかりで、こっちはこっちで大概こそこそと逃げて行く。そんな日常では、行動が活溌かどうかなど判るものではない。



「まぁな。……どうも、作物の不出来が影響しているみたいなんだが、詳しい事は判らん……っていうか、断定できんそうだ」

「作柄が……ですか?」

「あぁ。作物と同じく魔獣どもの餌も少ないんだとか、そうじゃなくて田舎へ買い付けに来る馬車が増えたせいなんだとか、色々意見だけはあるみたいだが、な」

「決定的な決め手は無い、と」

「そういう事だ」



 と、一旦議論を打ち切ったクドルであったが、ちらりと視線を傍らに巡らせる。



「今回はお嬢ちゃんも一緒だしな。面倒な事にならなきゃいいんだが」



 釣られたように傍らに巡らせたユーリの視線の先には、旅支度を(ととの)えて村人たちと談笑する、ドナとその祖父の姿があった。今回二人もユーリに同行して町へ行くのである。


 きっかけは昨夜の事であった。ユーリが町へ――ハンの宿場町でなく商都ローレンセンへ――行くのだと聞いたドナが、自分も行ってみたいと言い出したのである。本人としては駄目元で口にしただけだったようだが、これにオーデル老人が、一度くらいは商都を見ておくのも良かろうと同調した。行きはともかく帰りはどうするのか。魔獣どもが(ばっ)()する道を護衛も無しに歩くのは無理だし、護衛を雇うだけの資金など無い。

 普段ならそこがネックになるのだが、今回ばかりはユーリ――単身山の中に住み着くような猛者(もさ)――を当てにできる。話を振ったユーリに快諾を貰えた事から、今回の都行きが実現したのであった。荷主であるアドンから許しを貰えた事も大きかった。初めて都へ行くユーリとしても、知り合いがいた方が気が楽だろうと、アドンがその話に乗ったのである。

 アドンの中ではユーリは既にVIP扱いであり、彼の好感を得るためならそれくらいは安いものだと考えていたのである。



「今夜はハンの宿場に泊まるんですよね?」

「あぁ、一泊して旦那の用事を済ませるから、翌日の昼頃に出る事になるな」



 今回アドンはハンの宿場でなすべき用事があった。納税の代行である。

 ハンの町には代官の詰め所……と言うか出張所があり、エンド村ではハンの町まで年貢を運んで――魔獣()けも兼ねて大人数で――行くのが恒例であった。今回はアドンがそれを代行する形になったのである。一部の男たちからは町へ行けないのを――正確には町で騒げないのを――残念がる声も出たが、そこは抜け目のないアドンの事。仕入れてきた酒を格安で売って(なだ)めている。



「じゃあ、そろそろ出発するぞ!」



 ()くして、ユーリの――この世界における――初めてのお出かけが幕を開けるのであった。


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