第二章 来た、見た、食った 1.作物
明けましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いします。本日は4話公開の予定です。
住居の問題がある程度解決したので、ユーリはそろそろ心細くなりつつある食糧の問題に取りかかる事にしたのだが……こちらは思ったより早くその糸口が掴めそうだった。
「麦……だよね。小麦……いや、大麦かな?」
放棄された畑の跡地だと思っていたが……いや、それは確かにそうなのだが、栽培されていた作物が野生化して代を重ね、しっかりと生き延びていたらしい。雑草に混じって明らかに作物っぽいものが、能く見ればそこかしこに生えている。
その中にあって既に穂を着けている、麦のような穀物を【鑑定】したところ、裸麦――実と籾が離れ易い大麦の一変種――の秋蒔き品種と表示された。しかも早生のものらしく、もうすぐ収穫できそうな様子である。
それとは別に小麦も野生化しているようだが、残念ながらこちらはまだ穂を着けていない。
「う~ん……すぐにでも収穫できそうなのはありがたいんだけど……これだけじゃ、量が全然足りないよね」
ここ以外の畑にも生えているかもしれないが、全て回収したところで、粥数日分にしかならないだろう。それより種籾として使った方が良い。これは小麦など他の作物も同じだろう。村全体から収穫すれば、少しは食用に廻せるかもしれないが。
「ま、とりあえず種籾の確保はできそうだし、来年以降に期待かな」
来年の分はそれでも良いだろうが、問題は今年分の食糧である。せめて生き残っている作物の生育を助けようと、雑草を――念のために一々【鑑定】した上で――引っこ抜いていく。除草は農作業の基本である。
雑草程度ならまだしも、畑――正しくは元・畑――のあちこちに灌木が侵入して、作物の生育を妨げている。根が深そうなので腕力ではなく土魔法で引き抜……こうとしたところで気が付いた。どうも、村の中で栽培されていた果樹の種が芽を出して生長したものらしい。さほど大きくはないのだが、既に実を着け始めている。
「貴重な食糧には違いないし……安易に引っこ抜くのは考えものだな……」
木魔法を使えば移植はできそうだが、麦の方を別の畑に蒔くという選択肢もある。とりあえず果樹の若木はそのままにして、明らかな雑草だけを抜いていく。
そうやって除草を進めていくと、思ったより多くの芋が生き残っている事に気が付いた。前世では見た事の無い種類だが、【鑑定】によれば歴とした栽培種の芋であるらしい。畑の跡地に侵入してきた野生動物に随分食害されたようだが、建物や石の際など、ほじくり返しにくい場所を中心に、かなりな数が生き残っている。今はまだ芋も育っていないだろうが、世話次第では秋に結構な量が期待できるかもしれない。
他に何か無いかと探し回っていたら、雑草に紛れてニラだかネギだかの類が生えているのに気が付いた。盛りは既に過ぎているかもしれないが、年間を通して利用できそうな青野菜が見つかったのは吉報である。
「う~ん……当然と言えば当然だけど……生き残っている作物はあちこちに散らばってるな。……世話が面倒だし、家の近くの畑を耕して、来年からはそこに纏めて植え付けるか……」
生き残った作物以外の収穫は、一軒の納屋から見つけ出した小麦の袋だろう。
種籾用に取っておいたもののようだが、【鑑定】したところでは既に発芽能力は失われている。しかし、食用としてなら何とかなりそうだ。
「けどなぁ……いかにも古そうで、あまり食指が動かないんだよね……」
どうしたものかと考えていたが、野鳥を誘き寄せる餌に使えるのではないかと思い付いた。麦として食べる方がカロリー効率が良いのは解るが、古過ぎて食べようという気が起きない。これがジビエに化けるというなら、寧ろそちらの方を歓迎したい。
「だけど……今は蛋白質より澱粉質……カロリーを優先かな。山菜で何か食べられそうなものが無いか、明日にでも探してみるか……」
残り3話は。それぞれ21時、22時、23時に公開の予定です。