第二十章 僕の村は最上だった? 2.放出品
ユーリが取り出して見せたマジックバッグであるが、最初に村跡――ユーリの村よりも更に古い時期の村落跡――で見つけた時には、魔力切れで使えない状態であった。魔石を新しいものに取り替えるか、あるいは魔力を充填すれば使えたのであるが、どうせならユーリには試してみたい事があった。
切っ掛けは、ユーリが【田舎暮らし指南】の本質――統合スキルで複数の下位スキルを傘下に持つ――に気付いた時に遡る。【調薬(初歩)】【錬金術(初歩)】【鍛冶(初歩)】などに混じって、ユーリの目を引いたスキルがあった。
【魔道具作製(初歩)】
未解放であるらしくグレー表示になってはいたが、それでもここにそれが載っているという事は、修練次第で魔道具の作製が――初歩だけとは言え――可能になるという事である。中二病的世界で中二病を楽しんでいる、ユーリの琴線に触れないわけが無かった。
……尤も、この地で生き抜くためには、単に魔法を使えるだけでなく、魔道具まで作れるようになる必要がある――勿論ユーリの誤解――のかと思うと、些か薄ら寒い思いを禁じ得なかったのも事実であるが。
それはともかく、魔道具の作製が射程に入っているのを知った以上、そのスキルを手に入れたくなるのが人情というもの。この世界では、凡そスキルと言うものは、コツコツと修練を重ねた技術に宿る神様からの補正のようなものだ。言い換えると、スキルを得るためには、まず自力でその技術に挑んで身に着ける必要がある。
ただしユーリの場合、【田舎暮らし指南】に含まれている事で、半ば修得を約束されたようなものである。挑戦のハードルは低かった。況してお誂え向きに、半分壊れかかったような魔道具が手に入ったのだ。
結論から言えば、ユーリは持ち帰ったマジックバッグを散々鑑定した挙げ句に、あれやこれやの試行錯誤を繰り返してみたのである。その甲斐あってか、丸一日マジックバッグに取り組んでいたら、【魔道具作製(初歩)】のスキルを得る事ができていた。そしてそのスキルを早速使って、ユーリはそのマジックバッグの容量を拡張しておいたのである……状況が許す限界まで。
「その中って……そんな小さな袋に入るくらいじゃ……」
「いや、待った。……ユーリ君……それは……マジックバッグかね?」
さすがに老練なオーデル老人は、革袋の正体に気付いたようであった。
「えぇ。祖父の遺品です」
その一言で入手先についての詮索を封じて――ありがとう、見知らぬ祖父よ――ユーリは袋に手を入れると、その中から穀物の入った甕――革袋には到底入らない筈のサイズ――を取り出してみせる。こういう場合は麻袋か俵に入れるのが定番なのだろうが、布はユーリにとって貴重品であるし、藁にしても俵に編むほどの余裕も無ければ時間も無い。そもそも麦藁は節があるため、稲藁に較べて加工するのが面倒なのだ。土魔法で甕を作るのが、ユーリの場合は一番手間が無いのであった。
そして、その様子を見て驚愕の余り声も無い三人。ユーリには色々と驚かせられっ放しであったが、まだまだ驚きが足りなかったようだ。
そんな三人を横目で見ながら、ユーリは売却予定の品々を並べてみせる。ちなみに、ソバは今回出していない。他の作物に較べると収量の低いソバは、ユーリ本人が蕎麦好きなのと、痩せ地で育つソバという手札を残しておきたいという理由から一部の畑で栽培しているだけなので、放出するほどの在庫が無いのであった。
「……こんなところを考えているんですけど……どうでしょうか?」
問われてオーデル老人は、改めて並んだ品々を検分する。小麦と裸麦、それにソヤ豆と芋が大甕に四つずつ。大甕一つ分が大体五十キロくらいの量だろうか。前回来た時も思ったが、どれもこれも質は良い。
あの畑の規模からすると、もう少し貯め込んでいそうな気もするが……畑があそこまで広がったのは最近の事なのかもしれぬ。最初の頃はかつかつだったろうし。何より彼がこの地へ来てからまだ五年だ。このくらいが限度なのかもしれぬ。
それらとは別に、塩が小さめの甕に一つある。恐らく岩塩を掘ったのだろう。
あとは干し肉が……
「……ユーリ君……この……干し肉なんじゃが……」
「あ、猪の干し肉です。熊とかだと少し癖があるし、嫌がる人もいるかもしれませんから」
「……熊も狩ってるんだ……」
「……いいのかね? こんなに出してもらっても」
「えぇ。一頭分くらいなら、入手もさして手間ではありませんから」
「「「……一頭分? ……これが?」」」
どう見ても並の猪二頭分を優に超えそうな量なのだが……
「畑のある事に気付いたのか、この辺りはちょくちょく出るんですよ。まぁ、馬鹿みたいに突っ掛かってくるだけなんで、罠に嵌めてやれば、狩るのはそう難しくありませんから」
「「「難しくないんだ……」」」
明らかに普通ではあり得ないサイズの〝猪〟を、さして〝手間でもなく〟狩るという子供。危険な感じは少しもしないが、自分たちとは色々と――特に、常識と言うか基本的な認識などが――違い過ぎる少年を見て、今後の付き合いが難しくなりそうな予感を抱く三人であった。




