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第二十章 僕の村は最上だった? 1.エンド村からの迎え

 ユーリの(もと)へエンド村からの使いが訪れたのは、八月も終わりに差し掛かろうかという日の事だった。使いは三人、前回もここを訪れたオーデル老人と孫娘のドナ、そしてもう一人、若い男が一緒に来ている。

 石塀に目を(みは)りつつもユーリの方に微妙な視線を向け、更にはドナをチラチラと横目で見ている様子を見て、あぁ、ドナに思し召しがあるんだな、それで(ユーリ)の事が気になって、護衛を兼ねて()いて来たってとこか、青春だなぁ……などと歳に――いや、中身は享年三十七歳のオッサンなのだが、少なくとも今の外見に――似合わぬ感想を抱いて、生温かい視線を向けるユーリ。視線を向けられた側はというと……ドナは不思議そうに、若い男は何か居心地悪そうに、オーデル老人は悟ったようにうんうんと(うなず)いていた。



「……ようこそ。オーデルさんたちがお見えという事は、商人の来る日が近いという事ですか?」

「そういう事じゃ。()かすようで悪いが、ユーリ君の方の準備はできておるかね?」

「大丈夫です。作物の収穫はあらかた終わっていますし、残りは戻って来てからでも充分間に合います」



 まぁ、とにかく中へと言いながら、ユーリは三人を村へと迎え入れる。オーデル老人とドナは二度目とあって――少なくとも表面上は――落ち着いたものだが、初めて来た若い男の方は目が飛び出さんばかりに仰天していた。……まぁ、危険地帯にある、整然とした、廃村に、子供が、唯一人で住んでいて、これだけの畑を、独力で、維持しているのである。……驚かない方がどうかしている。

 半分魂が抜けかかった様子の男を連れて、ユーリは自宅に戻る。前回と同様に冷たい水と――二人が期待しているようなので――メープルシロップをかけたリコラの白玉団子を振る舞う。嬉々として舌鼓を打っている二人と、新たな驚きに声も出ない様子の男を代わる代わる眺めて、ユーリは二人に問いかける。



「……それで、こちらの方は……?」



 思えば当然のその台詞(せりふ)を聞いて、紹介がまだだった事――と言うか、紹介をほっぽって白玉団子に没頭していた事――に思い至り、(いささ)かばつの悪い様子で改めて紹介に移る二人。



「おぉ……そうじゃった。こっちは(わし)らの村の若い衆でな、オッタという。今日は護衛と荷物持ちを兼ねて来てもらった」



 老人に紹介された若い男……オッタは、どぅも、と口の中でもごもごと答えた。あまり口数の多いタイプではないらしい様子に、ややコミュ障気味の自覚を持つユーリは(むし)ろ親近感を抱く。



「ユーリといいます。今後ともよろしくご高配を」

「あ、あぁ……どうも……」



 ユーリの様子を見て当面ライバルにはならないと見て取ったのか、それとも度肝を抜かれ過ぎて心が折れたのかは判らないが、最初に感じたような警戒の気配は消えている。今はそれで充分だと考えていたユーリに、今度はオーデル老人が声をかける。



「それで? ユーリ君の荷物はどこじゃね? オッタに運んでもらうつもりで来たんじゃが」



 なるほど、オッタが背中に(から)背負(しょい)()背負(しょ)って来たのはそういう事か。子供一人に運べる量は高が知れていると思い、少しでも多くの食糧を提供してもらうつもりで連れて来たのだろう。しかし……



「あぁ、大丈夫です。この中に入っていますから」



 そう言ってユーリが見せたのは、片手に乗るほどの小さな革袋である。村の跡地で見つけたマジックバッグをユーリが修理したものなのだが、一見しただけではそうとは判らないだろう。

 (あん)(じょう)、三人は揃って(いぶか)しげな目を向けた。



「「「その中?」」」

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