第一章 始まりの場所 4.防備
本日……と言うか、今年最後の更新となります。次話は明日20時頃に更新の予定です。
一夜明けて快晴の空の下に出たユーリは、今日一日の目標を決める。
食糧の確保を急ぐべきだとは思うが、それより先に安全保障である。何しろここは〝魔獣や野獣によって住民が追い払われた村〟なのだ。周囲に危険な魔獣や野獣が棲息しているのは確定である。ならばそれに対する備えをしておかないと、我が身の安全を保障できない。
故に本日の予定は自宅の、できれば村全体の防備を見直して再構築に着手する事、そのために使えるものが残っていないかどうか村中を見回る事、この二つだ。
……最前にも触れたが、この時ユーリは小さいが決定的な誤解をしていた。
その元凶は、神の手紙にあった〝……その場所で生きていくために最低限必要な能力を与えておいた……〟という一節である。
文章を書いたのは神であり、従って内容も神の視点・神の基準で書かれているのだが……ユーリは素直にその文章を読んで、自分の能力は「最低限」なのだと誤解していた。
先住者たちはこの危険な地で何年も暮らしていたのだ。当然、自分よりも強い筈である。なのに、そんな彼らを撤退に追い込んだほどの、危険な魔獣がここには棲息している……。自分ごとき「最低限」が、単身この場所で生きていくためには、どうしても重厚な防備が不可欠である……
論旨の展開は間違っていないのだが、生憎出発点となる前提条件に誤りがあった。
神は、〝そういう危険な魔獣や野獣とやり合っても大丈夫〟なだけの能力をユーリに与えていたのだが、根が臆病なほどに慎重なユーリは、〝自分一人では到底そんな魔獣に太刀打ちできない〟として全ての計画を立てている。結論が不当なものになるのは避けられなかった。
ちなみに、廃村の周辺に棲息しているのは、確かにこの国でも有数に危険な魔獣や野獣ばかりである。
そして、神はユーリに〝そういう危険な魔獣や野獣とやり合っても大丈夫〟なだけの能力を与えている……
規格外の能力を持つ転生者は、己の能力に無自覚なまま、現代日本人の感覚と基準で村の防備を構築しようとしていた。
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廃村の周囲は木の柵で囲われていたようだが、今はそれも壊れている。
「ラノベだと土魔法で壁を造ったりするんだけど……」
村の範囲は結構広いので、村全体を新たな壁で囲うのには時間がかかるだろう。ラノベのチート主人公なら有り余る魔力にものを言わせて一気に造るところだろうが……生憎と自分は「最低限」の力しか貰っていない……と、ユーリは思い込んでいる。
実際には、並の魔術師に優に倍する魔力量を貰っているのだが、この世界の平均値というものを知らないユーリは、そんな事は思ってもみない。【ステータスボード】スキルでヘルプファイルを開けば簡単に判る事なのだが……行き届いた神の手紙がここで裏目に出ていた。
当面の対策として、自宅の周囲――とは言っても一軒だけではなく、井戸や便所までも含む一画――だけを頑丈な土壁で囲んでおく。高さはとりあえず三メートル、厚さは五十センチほどにしておいた。壁を念入りに硬化させると、ちょっとやそっと叩いたくらいではビクともしない石壁ができあがった。扉も同じように造っておき、内側から閂を掛けられるようにする。
「これで最低限の備えだけはできたかな……」
――グリズリーが体当たりしても壊せそうにないのだが。
「村全体を囲む壁は、追々造っていく事にしようか」
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「やっぱり碌なものは残ってないな……」
武器を作るための素材が残っていないかと村の家々を漁ってみたが、めぼしいものは離村の際に持ち去られており、使えそうなものはほとんど無い。せめて棒でもあれば、手持ちの剣鉈を結び付けて即席の槍が作れるのだが……と残念に思っても、無い袖は振れない。まして刃物の類は――壊れたものすら――残っていない。せめて古釘でも……と思ったが、そもそも鉄釘自体がほとんど使われていないようだ。無理に引っこ抜くと家が壊れる恐れもあったため、これは回収を見送っている。それでも破れた古鍋などがあったので、土魔法を使えば再生や加工は可能だろう。
土魔法と言えば、ラノベなどでは錬金術と並ぶ無双スキルのように扱われる事が多かったのだが、案に相違して土から金属を抽出するような事はできなかった。元々そういう仕様なのか、それともユーリのスキルレベルが低いためなのか、この時のユーリには見当が付かなかったが、事実はその中間にあった。
フォア世界の土魔法は基本的に、混合物の除去ならともかく、化合物からの元素の分離は不得手である。例えば、鉄分を含んだ赤土から酸化鉄を、もしくは鉄の化合物を集める事はできても、それを鉄に還元するような事はできない。それは錬金術か、あるいは鍛冶の領分だ。尤も、土魔法を突き詰めればそれもできるようになるので、不可能とまでは言い切れないが、不向きである事は変わらない。
その一方で、既に精錬済みの鉄なら、それを整形する事は土魔法でも可能であった。とは言え、鉄に炭素を混ぜ込んで鋼に鍛え直すような事はできないらしい。
ただし……実はユーリが貰ったユニークスキル【田舎暮らし指南】は様々なお役立ち技術の集合体であるが、その中には【鍛冶】【錬金術】【調薬】の初歩のような技術も統合されていた。なのでこのスキルのレベルが上がったら、これまでつらつら述べてきたような事もできなくはないのだが……今のユーリにそれを知る術は無かった。
なので、あれこれ試した結果からユーリが武器として採用したのは……
「今のところは土魔法で造った棍棒が頼りかぁ……一応先端は尖らせてるから、槍みたいにも使えるとは思うけど……強度が判らないのがなぁ……」
実際にはそこらの野獣程度なら十二分に通用するのだが、自分の力は「最低限」であると堅く信じているユーリには、気休め程度にしかなっていないのであった。
よろしければ筆者の別作品「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」・「スキルリッチワールド・オンライン」・「なりゆき乱世」もご覧下さい。