第十九章 不思議な少年 4.告白と覚悟
――この「村」には自分一人しか住んでいない。
この事実を明かす事には、ユーリとしても躊躇いはあった。
ボッチ生活を満喫していたユーリではあったが、万一他の人間と出会ったらどう振る舞うべきか。その対策については色々と検討を重ねていたのである。
まず最初に考えるべきは、どこまでの情報を開示するかであり、開示しなかった情報についてのカバーストーリーを用意する事である。情報については、生前読み耽ったラノベなどから、ステータスやスキルについては秘匿して――あるいは偽装して――おいた方が良いだろうと判断している。
幸いにしてユーリのユニークスキル【ステータスボード】には、ステータスの隠蔽や偽装の機能もある。これを使えば問題は無いだろうが……一から十まで秘匿してしまうと、表立ってスキルを使えないという不都合が生じる。また、何のスキルも持たない子供が今まで一人暮らしを続けてきたというのも、これはこれで説得力に欠ける気がする。
色々なあれこれを考えると、土魔法と水魔法の保有くらいはカミングアウトしても問題はあるまい……レベルについては別途考える必要もあろうが。
問題は、【鑑定】と【収納】である。
【鑑定】自体は保有している者も珍しくはないそうだが、日本からの転生者であるユーリの【鑑定】は、この世界の住人のそれとは違っている可能性があるという。なら、これについても秘匿しておくか……もしくはレベルをずっと下に偽っておく方が良いだろう。
これに付随して、目の前の相手を【鑑定】するかどうかという問題もある。【鑑定】すれば情報が増えるのは間違いない――そうしていれば、ユーリも自分のステータスが破格である事に気付いた筈――が、問題は【鑑定】された事に相手が気付いた場合である。この場合はユーリが【鑑定】持ちだという事がバレるだけでなく、下手をすると相手の心証を悪くする可能性もある。相手も【鑑定】持ちだったりしたら最悪だろう。少なくともこの国で【鑑定】という行為がどう思われているのかを確認しないと、迂闊な真似はできない……というのがユーリの判断であった。
残る問題は【収納】であるが、これを隠すとなると、先々色々と不便な事になるような気がする。頭の痛い問題であったが、以前に古い村落跡で見つけたマジックバッグが解決策をもたらしてくれた。そう、全てはマジックバッグのお蔭とすればいいのである。恐らくは高価な魔道具であろうから、妄りに見せびらかすのを控えたとしてもおかしくない。露見した場合の説明と、それ以上に黙っていた事の理由ができたのは重要である。
斯くのごとく、情報の開示については一応の方針が立ったとしても、他にも問題は残っている。
――例えば、他所の人間と出会った後、自分はどうするべきか。
そのままここで一人暮らしを続けるのか。ここを去って村なり町なりに出て行くのか。それとも……ここへ新たな住人を迎え入れるのか。
最後の選択肢については更に、他所の人間がこの村を乗っ取ろうとした場合の事まで考えなくてはなるまい。折角ここまでにした村を、むざと他人に明け渡すような真似はしたくない。であれば……実力での排除も考えておく必要がある。……最悪、村人を皆殺しにしてでも……?
――などと、目の前の少年が物騒な覚悟を決めているとは夢にも思わず、祖父と孫娘の二人はユーリの台詞に素直に仰天していた。
この広い「村」に唯一人? たった一人でこれだけの畑を維持している? いや、それよりも、ただ一人だけで、こんな「魔境」で生き延びている……?
エンド村から歩いて四時間余り、ここは既に魔獣が跳梁跋扈する領域である。幸いにして魔獣たちは山から離れるのを嫌うため、エンド村が魔獣の襲撃により壊滅――などという憂き目には遭っていないが、それでも辺境最前線と言ってよい立地である。
なのに、ほとんど山の中と言っていいようなこんな場所に、子供が一人で住んでいる? 自分たちなら頼まれても住みたくないような、こんな場所に?
一体、どんな事情があったのか?
愕然としている二人を尻目に、ユーリはさっさと自分の住処に歩いて行く。半ばフラフラとその後に続く二人は、またしても頑丈な石壁に囲まれた場所に辿り着く事になった。
「……これは……?」
「あ、ここが僕の家です。……あぁ、この塀ですか? 最初の頃は村全体を囲う事なんかできなかったので、手始めに家の周りだけを塀で囲ったんです。何かと物騒でしたから」
この辺りが物騒な事にはオーデル老人も異論は無いが……そもそも普通は、幾ら自宅の周りだけとはいえ、こうまで頑丈な塀で囲ったりはしない……いや、待て、この少年は今何と言った?
〝ここには自分一人しか住んでいない〟+〝村の周りを塀で囲った〟
ここから導き出される解答は……
「……この塀は……村の周りの塀も……君が作った……のかね……?」
「そうですけど、それが何か?」
――自分の能力はこの界隈の最底辺――
相変わらず盛大な誤解を引き摺っているユーリにとって、この程度は普通の土魔法使いならできて当たり前……の筈であった。
今日というこの日、その誤解を正す者が、遂にユーリの前に現れたのである。




