第十七章 アナザー~もう一つの廃村~ 1.リサイクル資源
少し時間が経過して、今回は二年目の話です。
二年目の初夏、手製の暦では七月の上旬、ユーリがそこを発見できたのは半ばは偶然であり、そして半ばは必然であったと言える。
金属資源の確保に悩むユーリであったが、ふと思い出したのは岩塩坑の事。
岩塩坑と言うくらいだから、鶴嘴か何かで掘っていた筈だ。なら、坑道の近くを探せば、置き忘れられたり壊れて打ち棄てられたりした鶴嘴などが見つかるのではないか……?
かかる淡い期待の下に岩塩坑周囲の探索に向かったユーリが発見したのは、打ち棄てられた鶴嘴……ではなく、打ち棄てられた村の跡であった。
ちなみに、岩塩を採掘するというのに塩に弱い鉄製の道具を使うだろうかという素朴な疑問は、ユーリの脳裏に浮かぶ事は無かった。
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「これは……僕の村より古いみたいだな……」
ユーリの住まう廃村はまだ家々の造りもしっかりしているが、ここは家というよりその残骸である。屋根も床もとうに抜けており、陽光の差し込む家の中には草や木が芽吹いている。
これでは何の収穫も無いだろうと諦めていたのだが、豈図らんや、ここが資材の宝庫であったとは。
「うわ……錆びたり傷んだりはしてるけど……ほとんどの生活雑貨が残ってるみたいだ……突発的に何かが起きて、村が放棄されたのかな……?」
――だとすると、あまり愉快な話ではない。
殊に、その「何か」を引き起こしたものが、まだ存在しているとしたら。
「……今のところ【察知】には何の反応も無いけど……注意しておこう」
注意はしつつも、使えそうなものは片っ端から【収納】していく。壊れていようが錆びていようが、貴重な資源には違いない。ユーリの魔法を駆使すれば、ある程度の再資源化は可能なのである。
「衣類は……駄目か。すっかり腐ってる」
家の木材が腐朽するくらいだ。布などが無事な筈も無かった。食糧の類も全て無くなっていたが、こちらは腐る前に野生動物の腹の中に収まったのだろう。
炭でも残っていないかと探してみたが、それらしきものは見当たらなかった。
「収穫は金属と焼き物くらいかな……ほとんど壊れたり錆びたりしてるけど」
残された「金属」の中に、この国の貨幣らしきものが幾つかあった。大半は銀貨と銅貨であるが、数枚ほど金貨も混じっている。廃村を出る機会があれば、必需品の購入に使えそうである。
「日本だと何かの法律に引っかかりそうだけど……こっちでは多分大丈夫だよね。……ラノベなんかでも、拾った者に所有権が移るみたいだし……」
多少グレーな部分はあっても、どうせバレはしないだろうと開き直って、めぼしいものを洗い浚い回収していく。
そうした戦利品の中に、「それ」が混じっていた。
「……これって……革袋みたいだけど……なんで無事なのかな? 破れてもいないし、特に傷んだ様子も無いし……」
木材が腐るほどの状況下で、革袋が無事に残っているのはいかにも怪しい。
「……毒か何か入ってるんじゃないだろうな……?」
毒物や重金属などで汚染されているのではないかと、おっかなびっくり【鑑定】をかけてみたところ……
《マジックバッグ:物品を収納するための魔道具であるが、魔力切れで現在は使用不可能。魔石に魔力を補充してやれば使用可能》
へぇ、魔道具なんだ、と感心していたユーリであったが、やがてこの魔道具の重要性に気付く。
【収納】自体はユーリがスキルを持っているので不自由は無いが、この魔道具があれば、ユーリの【収納】を隠す事ができる。【収納】スキルの事を隠したまま、【収納】の恩恵に与る事ができるのだ。
これぞ本日最大の収穫と喜んだユーリであったが、そう判断するのはまだ早過ぎたようだ。




