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第十五章 ニット物語 3.レザーパンツ

 嬉々としてセーターを一着に及び、冬空の下に出て行ったユーリであったが、暖かい上半身に対して下半身の冷たさに早々に音を上げ、家の中に引き籠もる事になった。何しろユーリが着ている衣服の素材はマオ。地球で言えばカラムシあるいはラミーのような、麻に似た素材である。シャリ感があって夏には快適なのだが、冬空の下で長く着ていたい素材ではない。



「と言っても、綿は入手の当てが無いし……町へ出て行けば手に入るかも知れないけど、それには先立つものが無いし……」



 結局のところ、少なくとも交易に使える程度の食糧が備蓄できるまでは、町に出る事は断念するユーリ。ならば、ありものでどうにかするより無い。しかし、幾ら何でもニットのズボンというのは……



「却下」



 ――であろう。


 間に合わせと思って作ったウルヴァックの毛皮製ちゃんちゃんこが思いの外に快適だった事から、毛皮のズボンを作る事も考えたのだが……



「毛を(むし)った後のモノコーンベアの皮が余ってるんだよね……」



 あれを(なめ)して革にして、レザーパンツができないものか。しかし、前にも懸念したように、レザーという素材は布に較べると固い。馴染まないと動きが制限される恐れがある。



「う~ん……とりあえず(なめ)し革を作って試作はしてみるとして……本命は毛織りのズボンかな」



 モノコーンベアならもう一頭分の素材が【収納】されているし、熊系の魔獣素材は他にもある。何しろ――理由は判らないが――魔獣どもは、ユーリの姿を見るなり突撃して来るのだ。反撃して狩った個体が、この半年だけでも相当な数貯まっている。加えて、魔獣というのは()()べて図体が大きい。一頭から採れる素材の量も相応に多いのであった。



「うん。毛織物の方は時間がかかりそうだし、先に皮の(なめ)しに取りかかるか」



 皮の(なめ)しとて一朝一夕に終わる作業ではない。石灰水につけて前処理をした後、泥のような溶液に漬け込んで醗酵処理を行ない、更にタンニンの溶液に漬け込むといった作業を順次行なう必要がある……本来なら。

 ところが、ユーリのユニークスキル【田舎暮らし指南】には、これらの面倒な過程を魔法で、しかも初級の魔法で代行する裏技が幾つも載っていた。ユーリはこれらの裏技を駆使して毛皮の処理や、毛を紡いで糸にする際の前処理などを手早く済ませる事ができたのである。

 そして、今回の皮の(なめ)し工程でも、これらの裏技が大活躍する事になる。



「う~ん……ウルヴァックの毛皮を処理した時には、生活魔法の【浄化(クリーン)】を応用した裏技が使えたけど……本格的な(なめ)し作業の場合はまた違うのかぁ……」



 ちなみに、生活魔法の【浄化(クリーン)】を応用した毛皮の処理では、他に初級の水魔法と光魔法が必要になる。



「皮を(なめ)す裏技は……へぇ……腐蝕系の闇魔法に浄解系の光魔法、それに洗浄系の水魔法を使うんだ……まさに裏技って感じだね……」



 ――という具合に、普通の職人なら決してやらないであろう方法で、ユーリはサクサクと(なめ)しの工程を進めていく。

 サクサクと進めてはいるが、これはユーリならではの事だと言える。ユーリは転生の段階で、神からこれらの魔法を高いレベルで貰っている。それらを半年にわたって――一般的な使用法とはかなり違うものの――使い続けてきた結果、いずれもそれなりのレベルに達している。馬鹿でかい魔力に裏付けられた威力もさる事ながら、加工作業などに使用してきた事で精密なコントロールにも慣れている。そんなユーリであればこそ、こういった裏技的作業も可能なのだ。では、ユーリ以外の職人ではどうなのか。

 大体、光魔法と闇魔法、それに水魔法を揃えているような職人などまずいないし、そんな人材は魔術師として生計を立てている。結果として、ユーリがやっているような裏技的な(なめ)し技法は、誰一人として知る者がいないか、もしくは絶伝している状態であった。



「軟らかくはなったけど……こんなんでいいのかな……?」



 一連の作業の結果柔らかに加工された素材は、【鑑定】の結果でもきちんと「(なめ)(がわ)」と表示されており、問題無く(なめ)し工程が済んだ事を示していた。

 あとは、これを裁断して縫っていくだけである。



「思ったより軟らかいけど……()き心地はあまり良くないな。防水はともかく防寒の効果は未知数だし……やっぱり早いとこ毛織りの布を作らなくちゃな」



 何だかんだで毛織りのズボンができあがったのは、新たな糸紡(いとつむ)ぎに取りかかってから十日後の事だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 靴については記述が無いですが、まだサンダルのままじゃないのですよね?
[一言] 技術の無駄遣いが楽しい作品です。
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