第十五章 ニット物語 1.防寒素材の選定
思いがけないアクシデントの結果としてではあったが、懸念していた布団の材料、中に詰めるためのダウンは大量に手に入った。何分図体の大きい怪鳥の事とて、羽毛も大雑把なのではないかと懸念していたが、幸いにしてそのような事はなく、充分な保温効果を持つダウン――と、それ以外の羽毛――が大量に手に入った。
「これでベッド周りは一応大丈夫……て言うか、普通の羽毛布団よりも暖かいんじゃないのか、これ?」
試しに潜り込んでみたところ、素人の手作りとは思えないほどに寝心地が良かったのである。……布団から出たくないと思うほどに。
「まぁ……ゴロゴロと布団に潜り込んでいても、誰から文句が出るわけじゃないんだけど……」
ただ、その分の生活が厳しくなるだけである。
「う~ん……布団から出て外で活動するために必要なのは……やっぱり暖かい衣服かなぁ……」
幸いに羽毛は大量に余っている。ダウンジャケットの一つや二つ、余裕で作れそうな量ではあるのだが……
「けど……肝心の布の方が心細いんだよなぁ……」
マオから採った糸は、採集した靱皮繊維が多くなかった事もあって、そろそろ底を尽きかけている。もう少し採っておけば良かったと反省するユーリであったが、元々生えているマオの量自体がそれほど多くないのである。村に持ち帰って栽培を試みてはいるが、充分な量を確保できるのは当分先の事になるだろう。
「無い袖は振れない。なら、あるものを使うしか無いよね」
ユーリの視線の向く先には、結構な量が溜まっている魔獣の毛皮があった。
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防寒着を必要とする状況があり、充分な量の毛皮が与えられたなら、普通は毛皮をそのまま纏う事を考える。ユーリも最初はそのつもりであったのだが、実際に毛皮を手にとって検分したところで、一つの懸念が胸に兆した。
「……結構剛毛だよね……」
身に纏うのに充分な大きさという事で、最初にマッダーボアの毛皮を手に取ってみたユーリの感想である。
モコモコとかフカフカとか形容するには些か短い体毛は、剛毛と言った方が良いような硬さである。保温を考えて毛の生えている側を内側にして纏った場合、下手をすると剛毛がシャツを突き抜け地肌に突き刺さりそうな按排である。しかも具合の悪い事に、ユーリが着ている自作のマオ布は、麻のような感じで若干……と言うか、結構目が粗い。ボアの剛毛なら簡単に通り抜けてしまいそうだ。
「……うん。少なくとも、マッダーボアの毛皮を裏返しに着るのは無しだな。けど、そうすると……」
他の毛皮を物色してみると、秋に狩った熊系の魔獣なら、体毛が長い分だけフワフワ度も上がっており、シャツを貫いて突き刺さるという事態は避けられそうであったが……
「フワモコの分だけ、着膨れしそうなんだよなぁ……」
ユーリが懸念しているのは見てくれではない。着膨れの結果動きが鈍る事である。
冬とはいえ魔獣の全てが冬眠しているわけではない。着膨れて動きが鈍くなっているところを襲われたら、下手をすると命に関わりかねない。
加えて、慣れないユーリが加工した革の衣服が、動き易いかどうかという問題もある。充分に鞣せば大丈夫かもしれないが、身の安全を賭けてまで試したくはない。
「そうすると……自動的に第二案になるわけか……」