第十四章 綿毛の案 2.迎撃
小鳥たちからその存在を教えられて以来、空から攻撃してくる魔獣への対処法についても、【対魔獣戦術】の教範を参考に、一応の検討は済ませてある。
押し並べて――空力的には飛行が困難なほどの――巨体であるそれらの魔獣は、飛行のためにほぼ例外無く風魔法を使用しており、攻撃や防御にも風魔法を使ってくる事が考えられた。従ってこの世界での対空戦とは、風魔法への対策から始まると言ってもよかった。
(風魔法で飛んでいる以上、その魔法を乱してやれば飛行は困難になる。不意を衝いて風魔法で攪乱してやるつもりだったけど……一度に三羽というのはきついな。けど、一羽ずつやってると警戒されてしまうかもしれないし……同時に三羽やるしか無いのか……)
三羽に連携されると面倒なので、仕掛けるなら早いうちだ。距離があるのが懸念材料だが、最早そんな事を言ってられる状況ではない。連日の訓練で上がったMPだけを頼りに、今は力任せにやるしかない。
尤も、ここまで追い込まれた状況にあっても自分が平静でいられるのは、断固として生き残るという決意のせいだろう。
……そんな事を考えるともなく考えていたら、風魔法以外にもキャスティングボートを握る方法がある事に思い至る。今までにも何度か使った事のある手だが……
(……この距離で、しかも標的が複数というのは初めてだな……)
しかし、躊躇している暇は無い――とばかりに、ユーリは先制の初手を放った。
「【集束光】!」
光魔法によって生み出され指向性を与えられた強い光の束が、飛来する怪鳥たちの眼を灼いた。
他のボール系、ランス系の攻撃魔法と違い、圧倒的に速いスピード――何しろ光速である――なので、俊敏快速を誇る怪鳥といえども回避する事はできない。瞬時にして視界を奪われ混乱する怪鳥たちに向けて、追い討ちの闇魔法が放たれる。
「【混乱】」
相手の心を掻き乱し、まともな判断力を奪う闇魔法。こちらの方は、どちらかと言えば大勢を相手に使うのが本来の使い方なので、怪鳥三羽が対象でも問題無く発動した。駄目押しで風魔法を放ち飛行を妨害してやると、面白いように引っ掛かる。
既に連携とか攻撃とかの段階ではなく、ただただ自分が墜落しないように必死の有様である。上下の定位すらまともにできていないようだ。
「さて……滅茶苦茶に動いている分だけ的には当てにくくなってるし……危害半径の大きな攻撃魔法しか使えないな。けど、下手に大規模な火魔法を撃って、羽毛が燃えると元も子も無いしなぁ……」
寸刻思案していたが、やはり当初の予定どおりの方法しかあるまいと判断して、
「【水球】」
水魔法で三つの水球を生み出す。ただし、この水球は飛ばして衝撃を与えるためのものではない。それを顕わに示すように、この水球は……破格に大きかった。いずれも直径およそ二メートル。怪鳥たちの頭部を覆って溺死させるには充分なサイズである。
「肺とか気嚢の中に直接水球を生み出せれば、もっと効率的なんだろうけど……今はそこまで狙いが定まらないからなぁ……大体、あの化け鳥の身体の構造も判ってないし、何よりああもジタバタ動き回られたんじゃ……」
獲物――既に敵ではない――が三羽もいるのが大きいだろうが、水球を頭に被せておくだけでも一苦労である。
しかしその苦労が功を奏して、間もなくユーリは大量のダウンを得る事に成功するのであった。