第十四章 綿毛の案 1.襲撃
「う~ん……どう見ても、布団に詰めるには足りないよなぁ……」
オロという、地球のアカソに似た植物の内皮から採った「綿」を見つつ、ユーリが腕を組んで呟いた。オロは皮から縄も作れるので、下部の周りの草を刈る程度には世話をしていたが、村での栽培まではやっていない。それが祟ったのか、秋に得られた「綿」の量は、布団に詰めるには到底足りないほどでしかなかった。
「家自体は木造だけど、高床にした部分は実質石造りみたいなもんだからなぁ……冬には冷え込むよね……」
そうなると、寝具が毛皮だけというのは非常に心許無い。一応マオで作った袋に藁を詰めてベッドのようにしてはいるが、掛け布団が毛皮だけというのは……
「いや、多分温かいとは思うんだけど……何か違うんだよね」
前世が日本人であるユーリとしては、やはり柔らかな布団に包まって寝たいというのが本音である。しかし遺憾ながら、布団に詰めるべき「綿」の入手には失敗した。残る手立ては……
「ダウンかなぁ……」
懇意にしている小鳥たちの抜け毛など、幾ら集めたところで高が知れている。ただ、以前に彼らから耳寄りな話を聞いてはいた。
『ぬけげ? たくさん?』
『そう。水鳥の集団営巣地とか、知らない?』
『みずべには あまり いかない』
『けど たくさんのぬけげなら アイツからとれば?』
『あ、アイツ きらい』
『アイツなら ころしちゃっても いいよね』
『はねげ たくさん とれるよ』
どうも、でかくて凶暴な鳥の魔物がいるようだ。面白半分に小鳥たちを追い回すので嫌われているらしく、あれを斃せば羽毛なんか採り放題だと唆されたのである。
その時点では、空を自在に飛び回る魔物を相手取るには力不足を自覚していたため、小鳥たちの唆しには乗らなかった。ただ、空を飛ぶ怪鳥が存在している以上、それが自分を襲う可能性は考慮しておかねばならず、【対魔獣戦術】の教本などを参考にして、自分なりの闘い方を検討していた。
そして、モノコーンベアとの戦闘経験から魔法の訓練法を見直して一ヶ月、覚悟を決めて怪鳥の羽毛を入手するかと考えていた矢先に、事態の方がユーリの先手を打ってきた。
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『ゆーり! アイツらがくるよ!』
『ルッカがくる! やっつけて!』
【察知】が高速で接近する未確認飛行物体(U.F.O.)の存在を報せるのとほぼ同時に、懇意にしている小鳥たちがその正体を教えてくれた。
《ルッカ:捕食性の鳥型魔獣。空力的には飛ぶ事の難しいサイズだが、風魔法を使用する事で自在に空を飛ぶ。攻撃にも風魔法を使う事があるが、基本的には爪と嘴で獲物を捕らえる》
ざっと見たところで体長は二メートルくらい、翼の開張は十メートル以上あるだろう。そんな化け物がまっしぐらにこっちへ向かって来る。それもご丁寧に三羽。僕を狙っているのは明らかだ。
「一応覚悟はしていたけど……三羽っていうのはさすがに想定外だなぁ……けど、やるしかないか」
そう。戦るしかない――生き延びたいのなら。