第十三章 喬木林 1.ユーリは山へ木を伐りに
「どう考えても……森の中に入るしか無いかぁ……」
気が進まない様子で腕を組んで呻吟しているユーリ。何を悩んでいるのかと言えば……木材の入手についてである。
日一日と夜の冷え込みも厳しさを深め、真剣に薪の用意に取り組む必要が出てきた。今までは村内の雑草や雑木――特に畑に生えたもの――などで賄ってきたが、それだけではそろそろ厳しくなってきている。
夜間の灯りについては、ユーリは闇魔法の【暗視】が使えるので、それほど多くを必要としない。細い草を灯心にした獣脂蝋燭で充分間に合っている。
しかし、それ以外の燃料についてはそうもいかない。例えば調理である。火魔法で調理すればいいだろうと思って試してはみたのだが、想像以上に火勢のコントロールが難しかった。大火力で一気に焼き払うのと、適切な火力を長時間にわたって維持するのは、全く別次元の問題であった。ちなみに、後者の方が格段に難しい。
冬に備えて薪を確保するのは生死に関わる要件であるが、それ以外にも、
「燃料だけじゃなくて、建築や加工の材料としても、木材が必要なんだよなぁ……」
大概のものは土魔法で作ってしまうユーリであるが、さすがに全てを土魔法で賄うのは難しい。燃料の事もあり、木材の入手は喫緊の課題となっていたのだが……魔獣が多いであろう森の中に分け入る事の危険性は別にしても、大きく二つの問題があった。
第一は、何で木を伐るのかという問題である。ここは生活必需品にすら事欠く廃村。斧などという文明の利器は無いのであった。
「……まぁ……金属器なんて無い大昔にも、人間は石器で木を伐り倒してたんだし……何とかなるだろうけど……」
場合によっては魔法だって使える。木を伐るのに適した魔法が何なのかは不明だが、雰囲気的には風魔法の【ウィンドカッター】の出力を上げれば、何とかなるような気もする。土魔法で生み出した「魔製石器」で、コツコツ伐り出してもいいだろう。鉄器に較べると重さが足りないが、そこは底上げされたユーリの力でどうにかするだけだ。
問題は二つ目の方である。
「今から伐り出しても……生木だと、燃えにくいよなぁ……。乾燥にどれだけ時間がかかるんだろ……」
食材の端切れを脱水する程度なら今までにもやってきたが、丸太を乾燥させるとなると、桁違いに難度が跳ね上がる気がする。無理矢理に急速乾燥すると、木材に罅や反りが入るだろう。木材としては使いにくくなるのではないか。かと言って自然乾燥に任せていたら、どれだけ時間がかかるやら知れたものではない。早めに木材の手配を済ませなかったユーリの、失態と言えば失態なのだが……
「けどなぁ……自衛の能力を高めてからじゃないと、危なくて森には近寄れなかったし……」
そう。そういった事情があったために、木材の入手に遅れが生じたのだ。これはある意味で仕方の無い事であったろう。
「枯れ木でもあればいいんだけど……」
・・・・・・・・
『かれたき? あるよ』
『うん もりのなか たくさん』
『本当に!?』
事態が一転したのは翌日の事である。
いつものように小鳥たちに餌を与えながらぼやいていたら、それを聞いていた小鳥たちが耳寄りな話を教えてくれたのだった。つくづく近所付き合いというのは大事である。
半信半疑ながらも、小鳥たちの教えに従って森のやや奥へと踏み込んだユーリが見たものは……
「おぉ……本当だ。……結構あちこちにあるよ……枯れ木」
小鳥たちの言葉に嘘は無く、確かにあちこちに枯れた木が散在していた。好い感じに枯れている木も多く、これなら、【ウインドカッター】でも伐りだせそうである……硬さ的には、だが。
「ただ……何で大木ばかり枯れてんだ?」
枯れ木はその悉くが大木であり、硬さはともかく、伐り出すのに酷く時間がかかりそうなのだった。