第十二章 団栗ころころ 3.土壌が出てきて……
本作の感想として、なぜか「従魔のためのダンジョン~」の草間女史の暗躍を問う声が上がったので、草間女史の活躍(?)に触れた挿話を「従魔のためのダンジョン~」に急遽追加しておきました。前後編の前編だけですが……。
ご質問の答えにはならないかもしれませんが、宜しければご一読下さい。
それと、後書きにお知らせがございます。
予想外の展開になって多少手間取りはしたが、まずは大過無くモノコーンベアを狩る事ができた。……できはした。
「……けど、もう少し攻撃の幅を広げないと駄目だな。この程度のクマに手こずってるようじゃ、森の中に踏み込むなんて自殺行為だよ。きっと、物凄く強力な魔獣がいるんだよね……」
――モノコーンベアはC級相当の魔獣であり、それもできるだけ複数の人員で対処するのが望ましいとされている。
……間違っても、七歳児が単独で討伐するようなものではない。
「はぁ……もっと魔法の威力を上げて、戦術の幅も広げないと。帰ったら早速訓練内容の見直しだな……」
以前にも述べたが、ユーリは神からの手紙の記述を誤解したために、己の能力はこの界隈で生き延び得る「最底ライン」であると固く信じ込んでいる。
それもあって、ユーリはこの地で生きていく上で、二つの方針を決めていた。
第一に、魔法を始めとする自衛能力を高め、万一の場合に備える。
第二に、森などの危険な場所に近づくのを、可能な限り避ける。
食糧採集という大目的があるにせよ、ユーリは森の深い部分に分け入るのは避けていた。しかし、それでもなお――不可解なほどの高確率で――ユーリは魔獣と遭遇していたため、戦闘能力の底上げも急務として訓練を続けていたのである。
その結果、単独でC級相当の魔獣をあっさりと屠るまでに至っていようと、その事実をユーリが知る事は無いのであった。
……いや、仮に知ったとしても、病的なまでに用心深いユーリであれば、更に凶暴な魔獣がいる筈だと備えを堅くするだけであろうが。
「……充分に闘えるまでは、できるだけ森には近寄りたくないしなぁ……」
――まだ充分ではないらしい。
「やっぱり、こいつも持ち帰って栽培するか。……芽生えはないかな?」
モノコーンベアをあっさりと【収納】に仕舞い込むと、もうその件は終わったとばかりに再びマテバシイ擬きのドングリ――と、その芽生え――に関心を移す。
普段なら芽生えを魔法で掘り取って、ついでに挿し木用に幾つか枝を切り取って、そのまま村に持ち帰って終わりだろうが、今日のユーリは少し違っていた。
クマ狩りに落とし穴を掘った――落とし穴は元通りに埋め戻してある――事もあってか、芽生えを掘り取った後の土壌の断面を観察してみたのである。
「……へぇ……落ち葉の層が思ったより厚いんだ……」
通常、森林の林床には厚く堆積した落ち葉の層が積もっている。その下部は土壌動物などによる破砕と分解を受けて細かな粉のようになっており、樹木の根や菌糸がみっしりと伸びて土壌をホールドしている。未舗装の道路など裸地で見られる鉱質土の層は、更にその下に存在する。
「ふぅん……こうしてみると、今の畑の状態は、森の土とはかなり違うんだな……」
少なくとも森から持ち帰って植えている果樹などは、地表を落ち葉か何かで覆ってやった方が良いだろうか……と考えていたユーリが思い出したのは、生前の日本で読んだ有機農業とか自然農法と呼ばれていた農法の事である。確かあの中に、不耕起のまま地表に枯草などが積もるに任せた畑の事があったような気がする……
「そう言えば……マルチングとかいって、藁やビニールで畑の表面を覆う方法もあったっけな」
森林の土壌断面の観察から、思いがけず農地管理のアイデアを貰った形のユーリであったが、同時に別の事にも思い当たる。
「あ……前に芽生えの移植をした時、土魔法だけだと上手く掘り取れなかったのは、こういうわけか……」
あの時は、芽生えを掘り取るわけだから木魔法も必要なのかと思って、両方を一緒に使って事無きを得たのだが……どうやら、土壌中に密に張り巡らされた根の存在が、土の移動を妨げていたらしい。木魔法を併用する事でスムーズにそれらを避ける事ができて、移植対象の植物だけを掘り取る事ができていたようだ。
「実際に見ないと判らない事って、あるもんだなぁ……」
本日まで連続投稿としてきましたが、ストックとスケジュールの兼ね合いもあり、次回からは火・金の週二回投稿とさせて戴きます。投稿時間は午後8時を予定しております。
以降も本作「転生者は世間知らず」を宜しくお願いします。
ついでながら、筆者の別作品「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」、「スキルリッチ・ワールド・オンライン」、「なりゆき乱世」も、宜しければご覧下さい。