表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/312

第十一章 醤(ひしお)と野獣 1.発端

 リコラの澱粉やヨッパの鱗茎に始まり、先頃は裸麦・小麦・蕎麦(ソバ)・芋の収穫も終わり、肉類は魔獣からそれなりに得られ、更には旨味成分を含むペピットの実や、メープルシロップやステビアといった甘味料の入手も射程に入った。

 食糧の供給に目処(めど)が立てば――次は味が気になるのが世の常である。



「今のところ、調味料といえるものは岩塩しか無いんだよなぁ……魔獣の肉は焼いただけでも美味いし、塩味だけでも文句は無いんだけど……」



 それでも、もう少し味付けの幅が欲しい。

 飽食日本で生前を過ごしたユーリにとっては、調味料が塩味だけというのは――遠からず甘味が追加されるにしても――やはり物足りないのであった。



「甘味・酸味・辛味・苦味・塩味の五つが五味で、これに旨味が加わるんだっけ……」



 現状は塩味だけ、近々追加できそうなのも甘味だけである。



「酸味は適当な果物を探すか、酒から酸化醗酵で酢を造るかすればいいし、辛味はある程度ハーブで間に合うんだけど……」



 問題は「旨味」である。この味覚を発見・証明した日本民族としては、どうにかして旨味調味料を入手したいところなのだが……



「代表的な旨味と言えば……昆布のグルタミン酸、鰹節のイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸……だったかな?」



 グルタミン酸は昆布以外に、小麦のグルテンやドライトマト、大豆や肉類にも多く含まれている。と言うかつい先日に、グルタミン酸を豊富に含んだペピットというトマトっぽい木の実を見つけた――正確には小鳥たちに教えてもらった――ばかりである。イノシン酸は肉類が熟成する過程で作られ、グアニル酸は干した(きのこ)やドライトマトに多く含まれる。



「うん……入手できなくはなさそうなんだよね……」



 本音を言えば味噌と醤油が欲しいところなのだが、(こうじ)(かび)はおろか大豆すら無い現状で、そんなものが造れるわけは無い。



「……確かどこかのシェフさんだか誰かが、トマトと茸と鶏肉とかで、味噌と醤油っぽいものをこさえたって記事を読んだ憶えがあるし……この際、(まが)い物でも何でも、調味料さえできればいいか……」



 残念ながら、(くだん)の調味料の正確なレシピまでは憶えていない。さすがの【田舎暮らし指南】師匠にしても、そこまでは網羅していないようであった。

 だが要は、ここで手に入る材料で、旨味調味料が造れるならいいのである。



「今のところ茸類は手元に無いし……ペピットの実でトマトピューレっぽいものでも造るかなぁ……」



 味噌と醤油の代用と言うには、少しと言う以上に毛色が違うんだけどな――と、(いささ)か残念に思っていたユーリであったが、ここである事に気が付いた。



 味噌や醤油の旨味の正体は、大豆の蛋白質が分解されてできたアミノ酸、特にグルタミン酸だった筈だ。蛋白質が分解――というなら、何も大豆に(こだわ)る必要は無いのでは? 

 肉こそ蛋白源の最たるものだし、魚肉を醗酵させた(ぎょ)(しょう)というのもあったではないか。秋田の塩汁(しょっつる)や奥能登の魚汁(いしる)、タイのナンプラーにベトナムのニョクマム。いずれも有名な旨味調味料だった。


 なら……同じ肉には違いないんだから……魔獣の肉でも似たようなものが造れないか? 確か古代の日本では、(しし)(びしお)というものが知られていた筈だ……



「……うん……試してみる価値はあるよね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お~肉に注目したかぁ 多くのなろう小説ではすぐに、醤油!味噌!鰹節!昆布!と言い出すんですが、 普通に考えれば、川や湖の小魚から作れる煮干しが一番簡単ですし、 入手性と作成時間を考えたら、鹿…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ