【書籍版二巻発売記念 幕 間】 味は異なものヘンなもの? 4.ユーリ(その2)
「……え? 野菜をマジックバッグに保管する理由――ですか?」
理由も何も、生鮮野菜を冷蔵庫……ではなくマジックバッグか冷暗所に保管するのは、当たり前の事ではないか。アドンの屋敷にだって地下室とか食料庫とかはある筈だろう。ユーリの家には地下室が無い――と言うか、床下には暖房用の煙路が通っている――ため、代わりにマジックバッグ(公称)に保存しているだけだ。
質問の意図が解らず首を捻るユーリであったが、マンドと会話を重ねているうちに、恐るべきその可能性に気が付いた。
(ひょっとして生鮮野菜の……と言うか、生野菜の重要性に気付いてないとか?)
大袈裟に聞こえるかもしれないが、ユーリにしてみれば頭を殴られたような衝撃であった。エンド村では普通に生野菜を摂っているような口ぶりであったのに、アドンの屋敷では……否、ここローレンセンでは違うと言うのか?
半ば強迫観念的な使命感に衝き動かされたユーリは、立て板に水……と言うよりも怒濤の勢いの口舌を以て、マンドにその重要性を訴える。
「お、おぅ……そうなのかよ……」
「生が全てとは言いませんけど、全く無視するのも如何なものかと。それにそもそも、葉物野菜をあまり使っていませんよね?」
「あぁ、まぁな。火を通すって前提で考えると、どうしてもな」
レタスのような葉菜はあるが、熱を加えると途端にヘニャリとなって見た目が悪いので、あまり使う事が無いのだという。スープに浸っているとまだマシなのだが、引き揚げた途端にヘチョっとなって、やはり見た目が今一つ。なので避ける事が多いのだそうだ。
葉物野菜の代表とも言えるキャベツはと言うと、こちらは漬物として食べられる事が圧倒的に多い。春キャベツの美味さは知られているものの、保存の利く漬物に廻される事が多いため、他の料理に廻す分が少なくなるらしい。
マンドも一廉の料理人であるからして、野菜の重要性は承知しているのだが、
「あとなぁ……生野菜ってなぁどうしても、お偉方の受けが悪くってよ」
「あぁ……そういう問題があるんですか」
食べる側があまり食指を動かさないものを、雇われる側の料理人が押し付けるような真似はしづらい。雇用関係にも罅が入りそうではないか。ユーリにもそれは納得できる。とすると代案は……
「だったらせめて、果物を能くお出しするようにして下さい。……果物は生ですよね?」
「おぉ。火を通したものを出す事もあるが、基本は生だな」
「だったらそれと……野菜の種類を増やしてはどうでしょう?」
「いや……俺もそれは気になってんだけどよ……あんまり受けが良くないのよ。筋が多くて食べにくいとかおっしゃってな」
「え? 健康のために食物繊維は不可欠ですよ?」
「あんだと?」
本格的に栄養学を勉強した事は無いが、だてに前世で病棟の住人と化していたわけではない。看護師と患者――共に女性――が会話していたのを聞いただけの耳学問だが、
「僕も詳しい事は知りませんけど……確か……美容と健康に良いとか……」
「美容と健康?」
悪玉菌・善玉菌だのコレステロールだのGI値だの腸活だのといったパワーワードを抜きに説明しようとすれば、ユーリの知識ではふわっとした事しか伝えられないが、それでも何となく解ってもらえたようで、
「……ともかくそういう話を聞いたって、俺から旦那に伝えとくわ」
「えぇ。宜しくお願いします」
結局はユーリ情報という事にして伝えるようだ。まぁ現状に鑑みれば、それが一番無難であろう。




