表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/312

第九章 織りたき柴の木 1.刈り取り

 七月半ばの早朝、ユーリの姿はマオの生えている場所にあった――土魔法で作った鎌を手に(たずさ)えて。



「【田舎暮らし指南】師匠によると、そろそろ刈り取りの季節の筈なんだけど……」



《マオから繊維を得るには七月中旬、開花前の茎を刈り取り、葉を取った茎をすぐに川か池に漬ける。これは、マオは乾くと皮が()がれにくくなるためである。刈ったマオはその日のうちか、遅くとも一両日のうちに皮を()く。()いた皮も一旦水に漬けておき、ある程度(まと)まったところで外皮を取り除き、残った内皮を乾かして繊維の材料にする》



 ……という【田舎暮らし指南】の記述に従うなら、刈り取ったマオはすぐにでも川か池に沈めなくてはならない。問題は、マオが生えている場所には川も池も無い事である。

 水桶を持って野原を廻るというのは負担が大き過ぎる。水魔法で水球を作り、その中に突っ込んでおくという手も考えられるが……



(いや……【収納】に突っ込んでおけば良いんじゃないか?)



 【収納】に入れてしまえば品質の劣化は無い筈だから、乾くのが(まず)いというだけならそれで充分な筈だ。そう思ってしばらく待ってみたところ……



「……うん。別に乾いてはいないみたいだ。これでいけそうだね」



 となれば、



「あとは刈って刈って刈りまくるだけ……」



 ……と、言いかけたところで気が付いた。

 先々の事を考えると、このマオも幾つかは村内で栽培しておくか、少なくとも村の近くに植えておきたい。そのためには種子を確保しておく必要があるわけで、つまりは花を咲かせて実を生らせる必要がある。要は()(こそ)ぎ刈り取っては(まず)いわけで……



「あ、あっぶな~……。うっかり全部刈り取るところだったよ……」



 刈り取りというストレスを受けた事を考えると、試作中の堆肥を与えておくか、あるいは木魔法をかけて(いや)しておいた方が良いかもしれぬ。しかし、施肥によって急に成長の良くなった株が、昆虫などに食害される可能性も無いわけではない。それを考えると、念のために数株くらいは村の畑に移植しておくか?



「……だったら、どうせなら品質の良さそうなものを選んで持ち帰ろうかな」



 種を採る事ばかりを考えていたが、木魔法があるなら挿し木を試みてもいいかもしれない。

 そんな事を考えながら、ユーリはサクサクとマオを刈り取っていく。【収納】で品質の劣化無く保存できるなら、刈れる時に刈っておいたほうが後々便利である。

 何しろ初めての試みなのだ。歩留まりがどれくらいになるのか、言い換えると、どれくらいの繊維が得られるのか判らない。材料となるマオは多めに刈っていった方が良いだろう。



「何を作るかは後回しにするしかないな……」



 この辺りは、できた繊維の量を見て判断するしかない。


 替えの衣服と言いたいところだが、衣服より先に()(とん)だろう。掛け布団の代わりは毛皮で何とかするにしても、やはり敷き布団は欲しいところだ。冬の事を考えると布団の入手は至上命題だが、今でさえ問題が無いわけではない。堅い床に(じか)に寝ているためか、起きた時に身体の節々が痛いのである。



「干し藁とか干し草を詰めた袋なら、敷き布団代わりベッド代わりに使えるよね……」



 生前柔らかなベッド――ほとんどは病院のベッドであったが、寝心地はそれなりに好かった――で寝ていたユーリにとっては、心地好く安眠できるベッドというのは、地味ながら切実な問題であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 床が硬い場合はハンモックが定番なんですけど、 紐や網や布に事欠く今の状況では、ハンモックも高級品ですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ