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【書籍版二巻発売記念 幕 間】 味は異なものヘンなもの? 1.マンド(その1)

書籍版二巻発売記念の幕間話です。幕間と言うには少々長く、六回分あるんですが……

ともあれ、本編と同じように火曜・金曜のこの時間に更新します。

 その日、マンドがユーリを呼び出したのは、ユーリの食生活に関してとある疑問が頭を(もた)げてきたからである。 


 北市場に同行させたエトの報告によると、ユーリは家畜の餌(チャード)救荒作物(イポといもまめ)、果ては売れ残りの粗雑なドライフルーツを見て狂喜し、嬉々としてそれらを買い込んでいたという。



(……アドンの旦那に見せてもらった作物は、どいつもこいつも上物ばかりだったが……)



 にも(かか)わらず、粗悪な食物をありがたがって買い漁る理由は何なのか。マンドには一つしか思い当たらなかった。



(……主食の麦とかはともかく……副菜になるようなもんが無ぇんじゃねぇのか?)



 他に理由が無い――と、ほとんど確信めいたものを抱くマンドであったが、一応はユーリに確かめた方が良い。そういう思いから、マンドはユーリを呼び出したのであった。



・・・・・・・・



「え? 僕が普段食べているものですか?」

「おぅ。エトのやつから聞かされて、ちょいと気になったもんだからよ」



 紹介された当初こそ丁寧な口調で応対していたマンドであったが、どうやらユーリを自分の同類だと認定したらしく、随分と砕けた口調で話すようになっている。無論その根底には、ユーリに対する親近感があるわけで、なればこそユーリの境遇を気にかけているのであった。



「家畜のエサとか非常食とかを大喜びで買い込んでたってぇじゃねぇか。……いや、余計な詮索かもしれねぇけどよ、普段どんなもん食ってんだ――って、気になっちまってよ」

「あぁ、それで……」



 納得した様子のユーリは寸刻考えた後で、〝百聞は一見に()かず〟とばかりに幾つかの見本を――普段から身に着けているマジックバッグから――取り出して見せてくれたのだが……それを見たマンドは危うく()(えつ)を漏らしそうになった。

 それもその筈、ユーリがマンドの求めに応じて――なぜか誇らしげに――()(ろう)に及んだそれらの「食材」は、マンドの目から見れば到底まともな「作物」とは思えなかったからである。

 それも道理で……ユーリがマンドの要請を受けて()(ろう)に及んだのは「作物」ではなく、所謂(いわゆる)「山菜」と呼ばれるカテゴリーのものであったのだ。

 前世日本人であるユーリとしてはこれらの山菜は、普段は食卓に上らない特別なものという感が強いのであるが……マンドの意見はそれとは違っていた。〝普段食卓に上らない〟事にも〝特別な〟事にも同意できるのだが……マンドにとってその〝特別な〟時とはすなわち、〝他に食べるものが無くなった時〟であった。

 よって――



(蔓草に木の葉っぱ――ってよぉ……そんななぁ真っ当な食いもんじゃねぇだろう……)



 ――と、マンドが()(よう)な思いを抱いたのも、(けだ)し当然の話であった。


 目の前にいる少年の健康優良児っぷりを見る限り、栄養失調と無縁である事は()く解る。

 しかし――とマンドは強く言いたい。

 日々の食事というものは、ただ単に栄養が足りていればいいとか、そんな無味乾燥なものではない筈だろう。



(たま)の楽しみが花の蜜だなんて……あんまり()(びん)過ぎらぁ……)



 そのマンドは主人であるアドンから、ユーリが木蜜を利用している事は聞かされている。また、ユーリがサヤとセナの姉妹に、サクランボ(クリック)クリ(リッツ)の木蜜煮を贈った事も知っている。

 ただしマンドは――極めて常識的な想像から――その木蜜とは野生のメーパルから少しずつ採集したものだと思い込んでいた。常識的に考えて、そうに違い無いではないか。

 ただ生憎(あいにく)な事に……実際にはその「常識」から最も遠いところにいるのがユーリなのである。そのユーリは有り余る魔力にものを言わせてメーパルだの果樹だのを増産しており、木蜜など日用品の消耗品でしかない。貴族だってユーリほど無造作な扱いはしていないだろう。


 そしてそのユーリは、マンドの憐憫(れんびん)の表情を見て何か思うところがあったのか、懸命に山菜の擁護に廻る。見かけはともかく、栄養バランスは良いのだと。



「そんな葉っぱがか?」


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