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【書籍版二巻発売記念SS】 ユーリの日記~栗の実余話~

書籍版二巻発売記念のSSです。時期的には、書籍版の「幕間 お菓子と癒し(ヒール)」の後の話になります。北市場でユーリが保護した姉妹の妹・セナの見舞いに、ユーリがマロングラッセを持参した事から始まる話ですが、内容自体はそのエピソードとは独立したものとなっています。

 なお、後半の回想シーンに登場するマーシャは書籍版に登場する酒精霊で、二巻では廃村でお留守番となっています。


 5年目 9/14 曇り

 セナの容態が安定したと聞き、オーデルさんとドナとともに見舞いに参上。手土産代わりに甘露煮を持参したが、思ったよりも喜んでもらえた。退室後にオーデルさんから、栗の貯蔵について質問を受ける。



・・・・・・・・・・



(リッツ)の実の貯蔵法ですか?」

「うむ。ひょっとしてユーリ君なら、何か良い知恵を持っておらんかと思っての」


 オーデルさんが言うには、エンド村でも栗は重要な食物なので、シーズンになると村中総出で栗拾いに出かけるんだそうだ。拾った栗は参加した家々で公平に分けて、


「天日でカチカチになるまで干し上げて、それから粉に()いて保存するんじゃよ」


 それを小麦粉と一緒に混ぜて、パンに焼いたりするらしい。こうすると二~三年は保存する事ができるそうなんだけど、


日保(ひも)ちするのは確かなんじゃが……これじゃとリッツを食べておる気がせんでのぉ」

「折角のリッツなのに、美味しくないのよね」

「ははぁ……」


 解るような気もするな。折角甘い栗の実なのに、小麦粉の増量剤扱いは残念だよね。

 実をそのまま食べられるのは旬の時期だけ……って諦めていたらしいけど、僕がセナのお見舞いに持って行った木蜜煮(マロングラッセ)を見て、ひょっとしたら――って思ったみたいだ。


「あぁいや、さすがに木蜜を融通してくれなどと厚かましい事は言わんよ。ただ、ユーリ君ならひょっとして、他に保存の方法を知っておらんかと思っての」

「他の方法――ですか?」

「うむ、どうせユーリ君の事じゃ。リッツの実もしこたま収穫しておるのじゃろう?」

「しこたま――という程でもありませんけど……」


 どうもオーデルさんは、僕のマジックバッグの容量が大きい事は知っていても、そこまで破格に大きいとは思ってないみたいだ。

 普通に考えて、マジックバッグには傷み易い肉とかを優先して収納する筈で、保存性の高い(リッツ)とかは、マジックバッグを使わずに保存していると考えてるっぽい。実際は全部(まと)めて【収納】の中なんだけど……


 マジックバッグの容量に制限がある中で僕が大量の栗を収穫しているとしたら、何か他の方法で保存している可能性が高い。けど、ドングリ(ダグやシカ)の実を水晒(みずさら)しして食べていると言っておきながら、栗の実を主食にしているとは言わなかった。

 ……なら、栗の実は補助食品的な位置付けの筈で、エンド村みたいに粉に()いて使ってはいないんじゃないか。だったら栗の実をそのまま保存する方法を知っていてもおかしくない……って、オーデルさんは考えたのかな。


 ……確かに、調子に乗って栗の苗木を殖やし過ぎたせいで、あれこれ大変な事になったのは事実だけど……



  ***



『ちょっとユーリ! あの異臭、どうにかしなさいよ!』


 我慢できないって顔でマーシャが文句を言ってくる、その理由は解ってるんだけど……


『ほら、(リッツ)の実って重要な食糧だから』

『えぇえぇ、それはあたしも重々解ってるわよ。でもね――』


 そう言うとマーシャは、振り返って自分の背後を指し示すと、


『ここまで殖やす必要が! あったのかって! 言いたいのよ!!』


 うん……調子に乗って三桁の大台に乗るまで殖やしたのは反省してる。それと、〝桃栗三年柿八年〟というくらい成長が早いのを忘れてたのも悪いと思う。

 結果として大量の挿し木苗は、木魔法を使った事もあってすぐに満開の花を着け――


『村中に異臭が立ち籠めてるじゃないのよ!』


 ……栗の花って、ちょっと臭いがアレだもんね。忘れてたよ。

 そして()せ返るような臭いの後には、その――文字どおりの――結果が訪れるわけで、


『リッツの実だって……一体どうするつもりよ。あたしたち二人じゃ食べきれないわよ』


 プンスカと怒り狂うマーシャを(なだ)めるために、「栗焼酎」の情報を解禁しようかと思ったけど……詳しい造り方が判らなかったんだよね。さすがに栗焼酎は「田舎暮らし」の範疇じゃないみたいで、【田舎暮らし指南】師匠も手助けしてくれなかったし。【鑑定】先生は現物を見ないと、詳しい情報を出してくれないし。


 結局栗焼酎は断念して、代わりに甘露煮でマーシャを懐柔したんだよね。実を保存するのにも使えたし。

 その時、ついでに栗の実の保存法も調べたんだけど……



  ***



「オーデルさん、『砂栗』ってご存知ですか?」

「『砂栗』……いや、聞いた事が無いのぉ」

(リッツ)の実を湿った砂に埋めておくと、翌年の三月頃までは貯蔵できるんですよ」


 埋める前に水に浸して虫を殺しておく必要があるし、三月を越えると芽が出たりするけどね。とりあえずこの方法で充分じゃないかな?

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