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【書籍化記念SS】 ユーリの日記~ルートビア開発次第~

 書籍版発売記念SS第二弾です。作中に登場するマーシャは書籍版限定のヒロイン(?)枠で、塩辛山で行き倒れていたところをユーリに拾われて、そのままユーリ宅に居座りました。酒精霊としての矜恃からか、何かとユーリに酒造りを勧めてきます。酒以外に重きを置かない性格のため、ユーリの事情についても立ち入るような真似をしません。コミュ障気味のユーリにとっては、或る意味でありがたい性格なのですが……逆にそれゆえに、ユーリの〝自分は塩辛山で最底辺〟という誤解を解く事もしないのでした。

 本話は時系列的には二年目の七月、なろう版の連載では十七話と十八話の間頃のエピソードになります。

 2年目 7/21 晴

 朝食後、昨日に引き続いてマーシャの要請で酒造原料探しに出かける。マーシャも同行。今日は川沿いをもう少し深くまで探索の予定。



・・・・・・・・・・



『ねぇユーリぃ……昨日も言ったけど、あたしが()いてく必要って、本当にあるのぉ?』


 肩の上でマーシャが泣き言を言ってるけど、僕の答は決まってる。


『マーシャ、昨日も言ったよね? 名前とかは或る程度僕にも判るけど、それが酒造原料に向いているかどうかは、マーシャがいないと判らない――って。大体、お酒の原料を探せって(うるさ)かったのはマーシャじゃない』

『そうだけど……何も今時分から探さなくてもいいじゃない。まだ実どころか花も着いてないのが大半なのに』


 マーシャとしては、もっと涼しい秋口に探索したかったんだろうな。けどね――


『秋は収穫の季節なんだから、畑仕事が忙しくて、探しになんか出られないだろ。今のうちに目星を付けておかなきゃ駄目なんだよ』

『それは解るけどぉ~……あ、ほら、実が()ってないと種類も判らないあたしって、役立たずじゃない?』

『種類なら僕が判るから大丈夫。さっきも言ったけど、マーシャには酒造原料としての向き不向きを判定してもらわなくちゃ』

『………………』


 うん、自分だけ逃げ出そうったって、そうはいかないからね。拒否権なんか無いよ。

 諦めたらしいマーシャを肩に乗せたまま、僕は河原を遡って行く。昨日は北側の林に分け入って探してみたけど、林冠が閉じて林内が暗いためか下層植生が貧弱で、めぼしいものは見つからなかった。マーシャが空から探せば、何か見つかったかもしれないけど……


『イ・ヤ・よ』


 ……前に大変な目に遭ったらしく、森に行くのを嫌がるんだよね。そのくせ酒造原料は欲しいって言うんだから。


『……あのねユーリ、上から見たって花も実も着いてないんじゃ、どのみちあたしには何の種類なのか判らないわよ』


 それもそうか……

 まぁそういった反省を踏まえて、今日は川沿いを調べる事にしたんだ。川の部分は林冠が途切れてて日当たりが好いから、草木なんかも生え易いしね。

 その狙いが当たって見つかったのが――


《ジベル:地球のショウガに相当する。食材として一般的に栽培される事は無く、山林に生育する薬草扱い》


 ショウガかぁ……薬草としても調味料としても優秀なんだけど、こっちじゃあまり認知されてないのかな。ま、僕としては大当たりだね。これで(しょう)姜焼(がや)きが楽しめるし、生姜湯や冷やし飴だって作れる。マーシャ向けには……ジンジャーエールは確かノンアルコールだったから、お気に召さないかもね。……確か、ジンジャーエールの原型になった飲み物があった筈……ジンジャービアだったっけ? ショウガの搾り汁に砂糖を加えて醗酵させて作るんだよね。醗酵のスターターも、摺り下ろしたショウガに適量の砂糖を加えるだけでできた筈だし……ジンジャーバグっていったっけ?


 ……マーシャにジンジャービアの事を教えたら、物凄い食い付きだった。僕個人としては、()り下ろしたショウガを醗酵させただけのペーストも良いと思うんだけど、断固として却下されたんだよね。……調味料としても優秀なんだけど……


 毒を食らわば皿までだと思って、ジベル(ショウガ)他数種の植物素材を使ったルーツビアの事を教えたら、マーシャってば更に(いき)り立って探し始めて……


『ユーリ、あれはどう? それっぽくない?』

『どれ? ……うわぁ……当たりだよ……』


《サルサ:地球のサルサパリラ(サルトリイバラ属)に相当する蔓植物。ハーブや生薬として用いられ、根を乾燥したものがリューマチや痛風・風邪・皮膚病・性病の治療薬として処方される。地球と同様にルーツビアの原料として使えるが、こちらの世界ではルーツビアは――材料として主に山に生える植物を多種類用いる事もあって――作られていない》


 他にもいくつか使えそうな材料を確保できたし……村で栽培するのは確定だね。


『ここいらのジベルとサルサは、全部畑に集めるわよ!』


 いや――さすがにそこまではしないからね、マーシャ。

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