表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/312

第七十六章 家路 2.珪砂採集(その2)

死霊術師シリーズの新作「貴方はだぁれ?」を昨日から公開しています。本日も21時頃に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。

 ユーリが心の師と仰ぐブンザ(故人)は、生前は小さな村で()(こう)(しの)ぐ貧しい錬金術師に過ぎなかった。しかし弱小であればこそ、その限られた力量を駆使して依頼に応えるべく、創意工夫を凝らして仕事に邁進(まいしん)していたのである。

 そんなブンザが書き残したメモの数々は、錬金術師としては駆け出し未満の見習いを自認するユーリにとって、まさに至宝とも言えるものであった。自分のような非才無力の凡俗――註.ユーリ視点――にも一通りの事ができるように、数多(あまた)の省力化と代替手法が書き残してあったのだから。


 そして……寒村の弱小錬金術師に過ぎなかったブンザにとっては、素材など金を出して買うものではなく、自ら産地に足を運んで採集するものであったらしい。チッポ村から行ける範囲にある素材の産地も、手記には網羅してあったのである。これだけでもユーリにとっては万金に値する情報であった。(もっと)も……



「距離的にそこくらいまでが限界だったみたいで、そこから先の産地については書いてないんですけど」

「まぁ、仮に足腰に自信があっても、塩辛山(しおからやま)には行かなかったと思うぞ」



 確かに、魔獣の(ひし)めく塩辛山(しおからやま)は、そんじょそこらの一般人にとっては敷居が高過ぎるだろう――得られる素材が幾ら上質であるにしても。



「――てかユーリ、珪砂ってなぁ塩辛山(しおからやま)じゃ採れんのか? いや、別に寄り道すんのが嫌ってわけじゃねぇんだが」



 去年も簡単に掘ってたみたいだし、家の近くで採れるのなら、そっちの方が手軽だろう――というクドルの指摘を受けて、ユーリも考え込む事になった。

 確かに、ユーリにとって珪砂の需要は、今後増える事はあっても、当分の間減る事は無いだろう。その都度(つど)外に探しに行くのも、面倒と言えば面倒である。塩辛山(しおからやま)で採れるのであれば、それに越した事は無い。

 何しろ物は珪砂であり、その元となる石英は――ユーリの前世の記憶に拠れば――地殻を構成する非常に一般的な造岩鉱物であった。その母岩が風化を受けて、摩耗しにくい石英だけが残留集積したものが珪砂である。集め易いかどうかが問題なのであって、それを無視すれば、極論すればどこででも採れると言ってよい。



(……【土魔法】を使えばできそうだな。崖崩れの跡も何ヵ所かあったし……)



 既に砂鉄の産地も見つけてあるし、あの辺りでなら珪砂も採れるのではないか。


 塩辛山(しおからやま)の立地を考えると、岩塩が混じる可能性はある。しかし岩塩は岩塩で、使(つか)(みち)は幾らでもある。冬の間は雪崩(なだれ)の危険もあったし水も冷たかったしで、斜面の掘削だの川砂の採集などには手を出さなかったのだが、これからは雪も融ければ水も(ぬる)む一方である。探索にも採集にも持って来いの季節ではないか。



「そうですね……帰ってみたら探してみようかと思います」

「おう。じゃ、とりあえず手記にあった産地ってところに行くか。この先の脇道を右だな?」

「あ、はい。手記にはそうなってます」

「聞こえてるなフライ? この先の脇道を右だ」

「へぃへぃ、解ってますよ……っと、あれか?」



 ブンザの手記に従って行った先は川であった。去年行ったチッポ村近くの採集地は崩落斜面であったが、ここでは川砂を採っていたようだ。上流に行けば崩積地もあるのだろうが、道が険しくなるために断念していたらしい。まぁ、堆積している範囲が広い上に堆積の厚みもそれなりなので、川砂を掘るだけでも充分な量が採れそうだ。オーデル老人やクドルたちを引っ張り廻すのも(はば)られるし、ここはユーリも師匠の(ひそ)みに(なら)う事にする。


 環境破壊の二歩手前ぐらいで採集を止めたが、その頃には太陽も大分傾いていた。このまま街道を戻っても、手頃な時間に野営地まで辿(たど)り着けるかどうか怪しいというので、この日はこのまま山麓で野営する事にした。野営適地もブンザの手記に載っていたし。



「何か……済みません」



 自分の()(まま)で予定を狂わせたユーリは恐縮至極の(てい)であるが、クドルもオーデル老人も、ついでにドナも気にした様子は無い。旅というのは大体がそんなもんだ。


 せめてものお詫びにと、ユーリは夕食の食材を提供する事にしたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ