第八章 見えざるものの影 2.対策と収穫
村へ戻った僕は、新たに出てきた課題について考える事にした。
罠については後から考える事にして……とりあえず待ち伏せ型の捕食者対策を兼ねてみよう。考えられるのは、次のようなものぐらいか……
・赤外線を感知
・炭酸ガスを感知
・電波を発して、その反射波から察知
・音波を発して、その反射波から察知
・重力異常から察知
三番目の手段は所謂レーダーだけど、電波というのはつまり可視光線と同じく電磁波の一種だから、光魔法で何とかなるんじゃないだろうか。……ただ、レーダー用の電波って、電子レンジと同じようなものだと読んだ事もあるんだよなぁ……。他の生き物への影響が大き過ぎるかもしれない……。
四番目の手段は所謂ソナーと同じだけど……音波は光より遅く伝わるから、その分こちらが気付くのが――視覚による場合よりも――遅れる事になる。不利と言えば不利だし……何よりこちらから音波を出すと言うのは、闇夜に提灯みたいなもので、こちらの所在を気取られるだろう。この点ではレーダーも同じだけど。……いや、それよりも、音を出すって何の魔法になるんだ? 音は空気の振動だから、風魔法になるのか? ……下手をすると、魔法の開発の方に時間を取られそうだ。却下だな。
五番目の重力異常は、巨大な質量を持つ相手が潜んでいた場合にしか使えないし、第一、元々は潜水艦相手の探知法だ。魔獣くらいの大きさじゃ、感知できるほどの重力異常は発生しない可能性もある。
「……と、すると……消去法で赤外線もしくは炭酸ガスって事になるのかぁ……。【鑑定】と【察知】を組み合わせれば、何とかなるのかな……」
ユーリはさらりと呟いているが、それが普通でない事には気付いていない。【鑑定】と【察知】を組み合わせて使用する……ユーリは普通に行なっているが、他の魔術師なら考えもしないだろう。二種類の異なる魔法を単に併行発動するだけでなく、両者を連動させる必要があるのだ。確かに有効かもしれないが、魔力のコストが大き過ぎる。普通の魔術師や冒険者なら、【察知】だけを鍛えて対応するところである。
「あ……けど、冷血動物だとか、じっとしている相手だと、発熱も呼吸も低いのか。……識別できるのかな……」
意外と面倒そうな事に気付くが、まぁ、それは運用の中でデータを蓄積して対処するしかないかと思い直す。
「けど……問題は罠の場合だよね。熱も炭酸ガスも放出しないし……」
罠発見のスキルなど持っていないユーリは、どうしたものかと頭を悩ませる。
「……結局は、普段から注意深く観察するように心掛けるしかないか……いや?」
【鑑定】を広範囲にかけて、人工物があったらそれを視野に表示させるようにしたらどうだろうか……?
いけそうな気がしたものの、これだとダンジョンのトラップなどには反応しない――人工物ではないので――ような気がする。それに例えば、イラクサの茂みなどがあっても表示されないだろうから、却って気付くのが遅れるかもしれない。いや、そもそも……
「……本当にそんな事ができるのかどうか、試してみた方が良いかな」
・・・・・・・・
ものは試しと村の中でしばらく実験してみたユーリであったが……
「う~ん……やっぱり、視野に『人工物』マークを表示させると、そっちに気を取られて、他の危険に対する注意が疎かになりそうだな……」
と言うか、単に「人工物」マークがウザい。村内だと視野を埋め尽くしてしまい、普通に歩くのすら難儀である。
「熱とかは……日の当たる場所だと周りの熱に紛れて目立たないな……炭酸ガスの方も、小さな動物だと判らないし……」
木々の梢に止まっている小鳥をターゲットにしてみたのだが、少なくとも日向で小鳥を見つけるのには向いてないようだ。
「……まぁ、そういう場合は普通に目と耳で探した方が早いよね。暗い場所とかでの探知には使えるかもしれないし……」
問題は、先日インビジブルマンティスに奇襲を受けたようなシチュエーション……日向の草原のような場所である。魔獣なら図体もそれなりに大きいし、熱や炭酸ガスで発見できるかもしれないが、罠のようなものはやはり難しくなる。
「結局は、今やっているような方法――【鑑定】と【察知】の連動――でいくしかないか。普段から注意深く観察するようにしておけば、経験さえ積めば何とかなるだろう」
――と、結論付けたまさにそのタイミングで、
《新たに【探査】のスキルを得ました。ステータス画面を確認して下さい》
「へ!?」
あまりにもゲーム的な展開に驚いて固まるユーリ。
やがて再起動したユーリが怖々【ステータスボード】を開くと……
「……わぁ……本当にスキルが生えてる……」
今まで【鑑定】と【察知】の連動で行なっていた事が、【探査】というスキルに纏められたようだ。ちなみに、熱や炭酸ガスの偏りについても、このスキルで調べられるようになっていた。
「……該当する行動を繰り返す事で、それがスキルに昇華するのか。VRゲームと同じだね」
……それなら、遣り方次第で罠を発見するスキルも生えてくるんじゃないか?