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第七十五章 雪原に吼える 7.雪原に吼える

「――何でよ!」



 独り憤激しているのはハーフエルフの魔術師カトラ。火と風の二属性持ちである。

 そんな彼女が憤慨している理由は、属性の数でティランボットに負けたから……ではなく、自分の属性と(かぶ)っている事が理由であった。


 魔獣ティランボットの最大の特徴は、魔力を防御に使う事にある。弱い魔力を発して探知魔法を妨害したり、身体の周囲に張り巡らせた属性魔力をバリアーのように使って、同じ属性魔力による攻撃であれば受け流す事ができる。

 つまり、この個体が水・風・火の三属性持ちという事は……取りも直さずカトラの魔法攻撃が通用しない事を意味するのであった。



「クソっ! 一体どうすりゃあ……」

「ダリアさん、骨製の(やじり)をお渡ししていましたよね?」

「――あ!」

「そうか! ユーリの魔製骨器!」



 ユーリが()(ちょう)も反省も無く(こしら)えた魔製骨器は、同じ属性の魔力を通してやる事で、(やじり)に属性攻撃を乗せる事ができる。のみならず(やじり)と属性の異なる魔力であっても、それなりの威力を乗せる事はできるのであった。

 目の前のティランボットは水・風・火の三属性持ちのようだが、逆に言えばそれは土魔法と木魔法は通じるという事。

 弓士ダリアの属性は風属性だが、風を読む事ができる程度で、実用レベルの魔法攻撃は使えない。だが、矢に魔力を乗せて放つぐらいなら、(むし)ろ弓士のお家芸である。



「だったら、あたしの短剣も使えるわよね!?」



 カトラが持つ魔製骨器の短剣――土属性――も魔法攻撃の補助具として使えるので、同じような事ができる筈だ。カトラが通した魔力を土属性の魔法攻撃に変換する事ぐらいなら――威力はそれなりに低下するだろうが――できるだろう。(もと)より彼女たちの狙いは牽制にあるのだから、その程度でも充分以上の役に立とう。



「木属性は攻撃には向きませんから、使うなら土属性の骨器でしょうか。僕の方は土魔法で……」

「その事だがなユーリ、礫弾(ロックバレット)はまだしも、石槍(ロックスピアー)は使うな。馬鹿貴族に見られたりしたらコトだ」

「あ……はい……」

「そうよ、あたしたちで馬鹿を()()って行くから、ユーリ君は牽制して時間を稼いでくれれば」

「あぁ、馬鹿どものために無茶をする必要など無い」



 ――と、半ば無駄だろうとは思いつつも、一応はユーリの説得に廻る「幸運の足音」一同。しかし……



「……解りました」



 妙に好い笑顔で承諾するユーリを見て、コイツ本当に解ってるのか――と、疑いの視線を向ける一同。


 だが、ユーリとて〝馬鹿のために〟余計な力を出すつもりなどさらさら無い。ユーリが働く理由はただ一つ。〝ティランボット(おいしいおにく)確保のため〟である。……だから……「幸運の足音」の指示に(そむ)く事にはならない筈だ……多分……


 双方の認識が整合しているかどうかには(いささ)か疑問が残るものの、とりあえず打ち合わせを終えたユーリと「幸運の足音」は、二手に分かれて別行動を採った。

 「幸運の足音」は身を隠しながら(バカ)旦那一行救出のために急ぐ。離れた位置にいるという瀕死の者の事は気懸かりだが、今は生きているターゲットを確保するのが先だ。

 そして、ユーリの方はと言えば……



(……みんなが(バカ)旦那――すっかりこの呼び名が定着したようだ――を()()って行く間、ティランボットの注意を引き付けておかなくちゃね。そのためには……)



 ユーリはティランボットの注意を引かないよう、【隠身】を発動したまま礫弾(ロックバレット)を放つ。不意の攻撃を受けたティランボットが苦痛と怒りの咆哮を上げたところで、ユーリは(おもむろ)に【隠身】を解いて姿を現し、今度はティランボットの注意を引き付けるかのように再度の礫弾(ロックバレット)を放つ。

 好餌を前にしたところで横から乱入した邪魔者に、怒りの視線をむけるティランボット。按排(あんばい)好くその注意を引いたと判断したユーリは、更なる挑発行為に移る。


 〝抜けば玉散る氷の刃〟――とばかりに抜刀したのは、門外不出を言い渡されていた筈の「(まだら)()(とう)」。派手な魔法も【隠身】も使えないという縛りプレイを強要されたユーリが、代わりにと持ち出した攻撃手段であった。

 遠目には普通の剣に見えるだろうから、今回使っても()したる問題は無い筈だ。幸い鞘は白木のままだし、この後で(こしら)えを整えてやれば、万一見られる事があっても同じものとは思われまい。


 ――そう理論武装を終えたユーリが、白刃(はくじん)(きら)めかせて高らかに声を上げる。



去来(いざ)! 推参(すいさん)!」



 本当なら〝遠からん者は音にも聞け――〟と、声も高らかに名告(なの)りを上げたいところであったが、さすがにそれをしない程度の良識はある。


 だが……ここへきて小さな手違い読み違いが一つ起きていた。

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