第七十三章 付与術師は語る 5.付与術とは何か(その3)
剣の斬撃性能、或いは打撃力を向上させると一口に言っても、その課題を解決する方法は一つではない。ざっと挙げるだけでも――
・剣自体の剛性や靱性を高める。
・魔力で一時的に重量を増して、打撃力・衝撃力を強める。
・剣の使用者の筋力を一時的に向上させる。
・刃に纏わせた魔力で対象物を脆弱化したり硬直させたりして、斬撃の効果を高める。
・刃の切れ味を鋭く保ち続ける。
――など、幾つもの方法がある。斬撃に拘らずに単に威力を上げるだけなら、打ち込むと同時に魔法による攻撃が発動するような、そんな術式を付与する事もできるだろう。
「持ち主の体力を向上させるとかはともかく、素材の剛性や靱性を高める――なんてのは、こりゃ付与術と言うより、鍛冶や錬金術の領分になる。けど持ち込まれた以上は、客の要求に応える事ができなきゃ商売は上がったりだ。その結果……」
「〝付与術〟の内容は変わらなくても、〝付与術師〟の仕事の範囲は広がった――と」
「そういう事だ」
――なるほど。「付与術」の内容が曖昧に思えたわけである。
要は「付与術」が曖昧なのではなく、「付与術師」が「付与術」以外の仕事まで請け負っていたというのが、かかる曖昧さを生ぜしめた原因らしい。背後でファレンが目を見開いているのを見ると、魔術師と雖もここまでの内幕は知らなかったようだ。
そして、これだけならまだしも……
「防虫効果のある染料で染めた服なんかを、〝防虫効果を付与した〟なんて触れ込みで売る商人なんかも出てきてな。『付与術』とは何の関係も無いんだが、客の方は付与がかかってるように誤解するわけだ。また、付与を使ってなくても、防虫の効果自体はちゃんとあるわけだから、話がややこしくなってくる」
「ははぁ……」
「卦体糞悪い事にその商人どもめ、〝そういう効果を付け加えたという意味で『付与』という表現をしただけで、『付与術』を施したとは言っていない〟――などと強弁する始末でな。ま、紛らわしいという事で止めてもらったんだが……今でもその辺りを誤解する客が多くてなぁ……」
この業界も色々と大変なんだなぁと、同情の念を禁じ得ないユーリであった。
「……まぁ、付与術についてはこんな感じだが……坊主が心配してる〝付与〟というのは、本来の意味での〝付与〟って事でいいんだな?」
「あ、はい。本格的なものでなくて構いませんから、せめて付与が暴発しないようにしたいので」
既にユーリは【田舎暮らし指南】のサブスキルとして、【付与】を一応は使えるようになっている。しかし、問題なのは【付与】が使える事ではない。ユーリにしてみれば、【微粉化促進】の付与を乳鉢に、意図しない形で付けてしまった事こそが大問題なのである。それは【付与】というスキルを、ユーリがコントロールできていない事に他ならない。
何しろユーリの【付与】は、【田舎暮らし指南】師匠が気を利かせて付けてくれたようなもの。ユーリ本人が意識して学んだわけではないため、付与術の正道を踏み外しているだろうという確信がある。
それでなくとも、〝気が付いたらいつの間にかかかっていた付与〟など、付与術と名告るも烏滸がましい。狙ったとおりの効能を、あるべき術理に則って付与してこその付与術ではないか。
「まぁ、それは確かにそうだな。付与に限らず魔術というのは、期待されるその効果をはっきりと想い浮かべる事が重要だが、単に結果だけ想像するだけでなく、その結果に至る過程をしっかりと理解しておくと、成功率や威力も違ってくるからな」
ユーリの事情を聞いてしまった以上は、オモとしても協力せざるを得なかった。
何しろユーリの懸念が当たっているとすると、事は人命に関わりかねない。仮にも付与術師に名を連ねているオモとしても、見過ごす事のできない案件である。
何しろ事情が事情だけに、基礎的な座学だけでは些か心許無いとして、簡単な付与の実践を通して、付与術のコントロールを身に着けさせる事に話が纏まる。そのためにユーリが数日間オモの工房に通う事になったが、ユーリとしては願ってもない展開である。
――斯くしてユーリは本職の付与術師から、正しい付与術の初歩を習う事に成功するのであった。




