第七十三章 付与術師は語る 4.付与術とは何か(その2)
「それじゃあ話すが……自分でも上手く纏められるかどうか判らんので、ざっくりと付与術史の流れをそのまま追ってみる。長くなるのは勘弁しろよ?」
そう前置きしてオモが語ったところによると、〝適性や資質に欠ける者に魔術を行使させる〟――というのを目標として誕生したのが付与術という事であった。
術を行使する者の適性や資質に制限があるというのがそもそもの前提であるため、複雑で強力な魔術は基本的に付与の対象にはならないそうで、付与できる術式は或る程度限られてくるのだと言う。
「文言による詠唱はできないという前提だから、術式は『魔法陣』という形に纏めて付与される。つまり付与する対象物には、それらの『魔法陣』を刻み込めるだけの余裕――これは面積という意味の他に、魔力量なんかも関わってくるんだが――が無きゃならん。という事で、最初期に能く使われたのが、特殊な処理を施した羊皮紙や植物紙だ。いわゆる『魔術符』というやつだな」
「ははぁ……」
「紙のスペースの許す限り『魔法陣』を描き込めるというんで大いに発達したんだが……そのうちに、実用上の問題が指摘されるようになってな」
「問題?」
「あぁ。魔術符は基本使い捨てになるんで、経費が嵩むというのもあるんだが、その他に……」
手に武器を持って戦っている冒険者などでは、片手を空けて魔術符を取り出し、然る後にそれを使う……などと悠長にやっている暇など無い。突発的な事態に対処しづらいという声が上がるようになったのである。普段から――というのは難しいにしても、事前に予め魔術符を用意しておけばいいのだろうが、そうすると今度は魔術符で手が塞がってしまい、他の道具を持ちづらい。
このジレンマを解消するためには、普段から手にしている道具――例えば剣など――に魔法陣を刻み込めばいいのではないか……という発想から生まれ、広まったのが、
「いわゆる〝付与された武器〟というやつですか」
「『魔剣』なんて呼ばれ方をする事もあるな。まぁ、この語の意味するところがまた曖昧でややこしいんだが……」
「要は紙に書いてあるかないかっていうだけですか。……あれ? だったら『魔道具』っていうのは?」
「そこがまた曖昧でややこしいんだが……飽くまで大雑把に言うとだな、二つ以上の術式から成っているものは、大抵『魔道具』って呼ばれるな」
「はぁ……?」
一例を挙げると、廉価品は別にして大抵の魔道具には、出力を調整する機構が備わっているそうだ。照明の魔道具であれば光量の調節や、時には絞りや点滅のような機構も付いているらしい。先日シリカが自慢していた攪拌鉢も、少し高級なモデルだと、回転速度を選ぶ機構は付いているとの事であった。尤も、シリカ謹製品のように無段変速ではないし、回転速度も温和しめのようだが。
逆に、武器や道具に対する付与では、単機能の場合が多い。道具本来の機能を損なわず、そこに更に魔術を付与するとなると、刻み込む術式も複雑なものは難しい。単純な機能とならざるを得ないと言う。
「それだけじゃなくて、咄嗟の事態に即応するというのがそもそもの出発点だから、即座に起動できる単純な術式の方が好都合なわけだ」
「ははぁ……」
技術的には多重付与というのもできなくはないが、その場合、複数の魔術式のどちらを起動するのかの切り替えが上手くいかない事がある。戦闘では一拍の遅れや逡巡が命取りになる事が多いため、敬遠されるという事のようだ。
その辺りの問題を解消しようとすると、高度な付与術や稀少な素材・触媒などが必要になり、結果として費用が嵩むため、購入の敷居が高くなってしまうらしい。
まぁ、実際問題としてはそれ以前に、複数の付与が可能な素材というものはかなり限定されるという問題もある。〝そう言えば、付与スロットの数がどうとか言ってたな……〟と、前世で耳にしたゲームの知識を思い出すユーリなのであった。
ともあれ、
「付与品と魔道具の違いって、結構曖昧なんですね……」
「まぁ言ってしまえば――だ、これらの区分は魔術の内容的な違いに基づくものではなく、使用者側の目線に基づいた区分という事だな」
例えば――出来合いの魔道具が欲しい時には魔道具店を訪れ、手持ちの道具を加工してもらいたい時には付与術師を訪れる……などという、感覚的な使い分けをしているようだ。なので魔道具職人なり付与術師なりも、顧客のニーズに合わせて住み分ける必要が出てきて、何となく区分されているのが現状なのだと言う。
「ははぁ……」
「ところが――だ、〝客の目線〟というか誤解のせいで、『付与術』の定義が更に怪しくなっていてな……」
〝付与した道具は性能が上がる〟という事から転じて、〝道具の性能を底上げするのが付与術〟だという誤解が生じ、その誤解が広く受け入れられてしまったらしい。それというのも、
「例えば――だ、〝剣の斬撃性能を高めて欲しい〟という依頼があったとする」
付与術に関する内容は、飽くまで本作中における設定です。




