第七十三章 付与術師は語る 3.付与術とは何か(その1)
「ふむ……付与術か……」
難しい顔付きで黙り込んだオモを、ユーリは固唾を飲む思いで見つめている。
前世日本のラノベでも、付与術というのは屡々登場したものだが……それがどういうものなのか、ユーリには今一つ解らなかった。いや……正確に言えば、「付与」というのがどういうものかは解るのだが、「魔道具」や「魔法陣」と較べてどこがどう違うのか、そこが解らなかったのである。
転生やら何やらの紆余曲折を経て、今日という日に漸くその謎が明かされるというので、ユーリも興味津々なのであった。
そんなユーリの熱い視線に些か決まり悪い想いを抱きつつ、付与術師のオモは言葉を続ける。話している間にも考えを纏めるかのように、言葉を句切りながら。
「……誤解されている部分も多いが……本来の意味での付与術とは、言うなれば〝指定した魔術の効能を再現できるように、任意の物品に術式を刻み込む術〟……といったところか。……魔力量や属性などの問題で本来その魔術を使えない者に、指定した魔術を行使できるようにする……そういった『魔術』の事だな。……その意味では本来の〝付与術〟とは、ただ一種類の魔法だけであるとも言える」
「一種類……?」
ユーリは思わず首を傾げた。付与の種類は一つではない筈だが? 前世のラノベに登場しただけでも、「耐久力上昇」とか「打撃力向上」とか「硬化」とか「力場障壁」とか「自動サイズ調整」とか、様々なものがあったように記憶しているが……こっちの世界では違うのだろうか? ユーリ自身がつい先日、図らずも【微粉化促進】なんて付与を成功させたのだが……まさか、アレがこの世界唯一の付与だとでも言うつもりか?
「……多分誤解しているんだろうが、坊主たちが思っている〝付与の種類〟っていうのは、実際には〝付与された効果の種類〟だからな」
そこまで言われれば、ユーリにも見当は付く。
「あぁ……例えば、印さ……版画は無数にあるけど、それを作る技術は一つ……みたいな感じですか?」
「そのとおりだ……上手い喩えだな」
うっかり活版印刷の事を口走りそうになったが、すんでのところでそれを回避して、差し障りの無い版画の例で喩えておく。……ドライポイント? エッチング? シルクスクリーン? リトグラフ? 木版画? ……大丈夫、全部「版画」という〝一つの〟技術の範囲内だから。
まぁ、それはともかくとして……オモの言うのが正しいのなら、付与術の定義は極めて簡明である。しかし――
「……あれ? だとしたら、付与術師と魔道具職人って、どう違うんですか? それに、他に魔法陣とか魔術符とかっていうのもありませんでした?」
前世で抱いた違和感の正体、それを解明するのは今しか無いとばかりに、ユーリはオモを問い詰める。訊かれたオモも頷いてみせたのを見ると、ユーリの疑念も故無きものではなかったらしい。
「尤もな質問だが……その答は少々ややこしい話しになるんだ。少しばかり話が長くなるが?」
〝構わないか?〟と訊ねるオモに、ユーリは――背後の保護者連と視線を交わした後に――頷きを返した。




