第七十二章 インバの魔道具店 5.新規発注あれこれ(その2)
予て気になっていた「攪拌器」については懸念が解消したものの、ユーリの視線はなお店内を巡っている。一体何を所望しているのかと問えば、
「録音と再生?」
「それに拡声器と集音器? そんなもん注文してどうするの?」
ユーリの答を聞いて面喰らった様子のインバとシリカであったが、実はこれはユーリの長年の懸案事項であった。ユーリが何を考えているのかというと、前世にあった爆音機である。
ユーリは小鳥や野鼠との間に友好的な秘密――少なくとも、世間に大っぴらにするわけにはいかない――協定を結んでおり、作物を無闇に食害しない代わりに、村の外に鳥獣用の畑を作ったり、水場や隠れ処を用意するなどのインフラやサービスを提供していた。代わりに小鳥や鼠たちは、村の周辺の見廻りや警戒を受け持ってくれている。結果として、ユーリと地元鳥獣との間にはwin-winの共生関係が結ばれていたのだが、そんなルールを無視して村内に侵入しようとする愚かな動物や魔獣――大抵は他所から来てユーリの事を知らない流れ者――もいたのである。
そんな連中の相手に辟易していたユーリが、小鳥や野鼠たちと相談――珍しい事ではある――した結果、爆音か何かで脅かしてはどうかという案が出たのである。ユーリは小鳥や野鼠にもストレスになるのではないかと懸念したのだが、当の小鳥や野鼠たちからは、〝危なくないと判っているなら気にしないから、試しに音を立ててみてほしい〟――という意見が出されたのであった。
そういう事で一応は合意に達したのであったが……ユーリにしても爆音機を入手する当てなど無かったので、話は一旦棚上げになっていたのである。
しかし――ここ商都ローレンセンで、名にし負うインバの魔道具店を訪れる機会に恵まれた今こそ、この懸案に手を着ける好機ではないか?
そう考えたユーリがインバとシリカに相談した結果、
「はぁ……そういったわけなのかい……」
「確かに、塩辛山に一人で住んでるっていうんなら、そういう工夫も必要かもね……」
インバとシリカ、ついでに保護者一同の理解を得る事ができたのであった。実際にユーリの畑を訪れた事のある――そして小鳥や野鼠との密約を知らぬ――オーデル老人とドナなどは、子供が独りであれだけの畑を維持するには、きっと並々ならぬ苦労があるのだろうと、心中で納得するのであった。
「まぁ話は納得できたけど、しかしね……害獣を追い払うって簡単に言うけれどね、一体全体どんな音を立てりゃいいんだい?」
「それこそ色々試してみるしか無いと思います。単に大きい音で充分なのか、高い音と低い音のどちらが良いのか、音の大きさよりも継続時間なのか、発音の間隔はどうするべきなのか……あれこれ手を替え品を替えて、試してみる必要があるでしょうから……」
「あぁ……録音ってのはそういう意味かい。色んな音を録音させちゃあ、効き目の程を試してみようって事なんだね?」
なるほど、それなら確かに録音と再生の機能が必要だろう。
「で、再生する音を遠くまで伝えるために、拡声器が必要だって事だね?」
「あ、拡声器の部分は本体と切り離して使えるようにできますか?」
「そりゃ、できなくはないけど……」
「拡声器だけで何しようってんだい? 坊やの村にゃ、他に人はいないんだろ?」
「偶~~~~~に人が来る事があるんですよ。けど、毎回僕が気付いてお出迎えできるとは限りませんし」
呼び出し用に拡声器を使う事を考えたらしい。インバにしてみれば、それだけのために魔道具を使うなど贅沢の沙汰であって、
「鐘とかを鳴らすんじゃ駄目なのかい?」
傍の者にも至極当然に思えたインバの問いかけに対するユーリの答は、




