第七章 草の葉 1.薬草
除虫菊の件で不安を掻き立てられたユーリは、村の周辺で見られる植物に片っ端から【鑑定】をかけ、薬草やハーブの類を探し出すのに血道を上げた。
その甲斐あって、解熱・鎮咳・消炎・鎮痛・利尿・健胃から下痢止め・痒み止め、打ち身・肩こり・疳の虫に至るまで様々な効果のある薬草――と、ついでに毒草――を見つける事ができた。有用そうなものは持ち帰って栽培も試みている。どうせ畑は有り余っているのだ。
しかし……
「キナの木とか、それに近いものは無いなぁ……」
向こうの世界だと、キナの木からマラリアの特効薬たるキニーネを得る事ができていた。マラリアと言えば蚊が媒介する病気の代表みたいなものだけに、その特効薬があれば入手しておきたいのが人情である。
「まぁ……この世界にマラリアがあるのかどうかは判らないけど、それでも用心だけはしておきたいよね」
デング熱や黄熱を媒介するネッタイシマカの方は気候的に分布が困難かもしれないが、マラリアを媒介するハマダラカくらいならいてもおかしくない気がする。
この世界ではどうなのかという疑問はあるが、可能性があるなら対策ぐらいは講じておきたい。そう思って探しているのだが……
「う~ん……キナの木は南米だと二千五百メートル以上の場所に分布するとか読んだ憶えがあるしなぁ……この辺りだと生えてないのかも……」
気候帯を考えると微妙である。だがそうすると、どうしても山の奥に分け入る必要があるのだが……
「今の僕じゃ、そこまでの力量も経験も無いしなぁ……。それに……今気付いたけど、森の中にだって蚊はいるよね……」
力量も経験も、ついでに装備も不充分なまま森への突入を強行し、跋扈する魔獣や猖獗する悪疫に斃れるような事があっては、本末転倒もいいところである。
「……当分は大人しく、草地で探索と採集を続けるか……」
もう少し力量を上げて経験を積めば、森の中に入る事はできるだろう。そうすれば、今より多くの薬草薬石を得る事もできる筈だ。今はそのための研鑽の時だろう。
――と、結論づけたところで、ユーリは発想を転換する事にした。
「現状で病気の特効薬は得られないんだから……病気に罹ったり傷を負ったりしても、それを治すだけの力があればいいんだよね」
前世ならここで滋養強壮とか健康食品とかに進むのだろうが、ここは異世界。剣と魔法と魔獣の世界である。考え方も自ずと違ってこようというものだ。
「……迂闊にも今まで確認してなかったよ……。魔法があるくらいだから、ポーションくらいあるよね?」
――あるも何も、神からの贈り物として【収納】の中に入っているのだが?
「……うん……まあ、細かい事は措いといて……【田舎暮らし指南】師匠には……あった!!」
本来であればポーションの作成には【調薬】か【錬金術】のスキルが必要なのだが、なぜか【田舎暮らし指南】に製法が載っていた。
上級のものを作るには色々と特殊な材料が必要なようだが、この辺りで得られる素材だけでも、何種類かのポーションが作成可能なようであった。
すっかり舞い上がったユーリが、急ぎ村に戻るなり、原料の尽きるまで作製に走ったのは言うまでも無い。
斯くして、床一面にずらりとポーションを容れた器が並ぶ事になったのだが……
「う~ん……何か、土魔法で作っただけじゃぁ、見栄えが好くないな」
容れ物の見栄えで効果が上下するものではないと思うが、何かありがたみのようなものが感じられない。醤油でも入っていそうな気になるし、下手をすると実際に間違えそうでもある。
「材質かデザインか……差別化の事も考えた方が良いかな……」